現地でも売られる「メリーズ」「熱さまシート」「キユーピーマヨ」を外国人観光客が日本で買う理由 外国で高評価メイド・イン・ジャパンの日用品(2)

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 フリーライターの白石新氏がお届けする、世界中から高く評価される「日本製商品」事情。例えば「Seki EDGE」で知られる爪切りや、「フリクション」「ジェットストリーム」といった日本製筆記具は海外で高い評価を受けており、その理由を「製品として出来がよく、どこで買ってもハズレがない」とライフスタイル誌ベテラン編集者は分析する。

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 だが、その一方で、実はいま“MADE IN JAPAN”にまつわる、いささか奇妙な現象も発生しているのだ。日本製と同等のクオリティであるか、もしくは消費される地域に最適にアレンジした製品を、現地で生産しているケースである。そこではまさに“日用品のMADE IN JAPAN神話”に洗脳されたかのような購買行動がみられるのである。

 たとえば紙オムツ。都内のドラッグストアの男性販売員は、満面の笑みをうかべて語る。

「あいかわらずの売れ行きです。販売個数制限をもうけても、まだ需要に供給が追いつきません」

 指差す先には「紙オムツ3パックまで」という内容を中国語でしたためたポップと、スカスカになった棚があった。

「中国人観光客のお目当ては日本製の『メリーズ』。みなさん、個数制限ギリギリまで購入していかれます。でも、なかには、もう1回買うために変装して訪れる人もいるみたいですよ」

 そこまでして買いたくなる紙オムツ。中国人観光客をこうも駆り立てる「メリーズ」とは、花王の紙オムツだ。いったいなにが、彼らを日本製「メリーズ」にむかわせているのか。品質が高いであろうことは想像がつくが、あらためて花王の広報にたずねると、

「メリーズの“肌へのやさしさ”が、中国の消費者に高く評価されています。通気性のよさ、柔らかさ、吸収力のよさ、といった高い機能を実感しているからだと認識しています」

■性能は変わらないのに

 だが、実は、「メリーズ」は中国でも生産されているのだ。それなのに、かさ張る紙オムツをわざわざ日本で買って中国に持ち帰るという行動は、どんな動機にもとづくのだろうか。日本企業の中国支社に駐在する日本人女性が説明する。

「中国の消費者は、想像以上にSNSなどによる口コミを重視するんですよ。当初、日本から輸入した『メリーズ』を使った消費者の口コミで、“日本製の『メリーズ』はすごい”という評価が拡散しました。その後、性能が変わらない『メリーズ』が中国で生産されるようになっても、最初に受けた日本製の衝撃が忘れられなくて、“レジェンド紙おむつ”みたいに祭り上げられているんです」

 このような“日用品のMADE IN JAPAN神話”を、いっそう端的にあらわしているのが、小林製薬の「熱さまシート」だろう。実は、同社の製品は中国メディアが2014年に発表した「日本で買うべき12の医薬品リスト」のなかに、5つも取り上げられるなど、中国で熱狂的な支持をあつめている。

額に貼り、熱冷ましなどに用いるシート

 そのうちのひとつが、シート状の冷却ジェルを額などに貼って、熱冷ましなどに用いる「熱さまシート」で、1994年に日本で発売されると、96年には香港に進出。いまではアジアにとどまらず、欧米でも人気を博しているのだが、

「日本で売られている商品も、実は中国で製造されていて、パッケージに“MADE IN CHINA”と明記されています」

 と小林製薬広報総務部。それなのに、どういうわけか国内のドラッグストアで、中国人たちの爆買いが止まらないのである。だが、たしかに違いはある。国内向けと中国向けとでは、パッケージの雰囲気もよく似ているが、言うまでもないけれど日本向けは、商品名から使用方法まで日本語で表記されている。

「MADE IN JAPANの雰囲気が大事なんですよ。日本で売られているもののほうが、安心感があるんでしょうね」

 とは、前出のドラッグストア販売員の見立てである。

■日本国内の味に近づけて

欧米でも人気のキユーピーマヨネーズ

 食品をめぐっても、不思議な現象は起きている。キユーピーマヨネーズは、北京で85%、上海でも60%という驚異的なシェアを誇るほど、中国人の食生活に浸透している。

 かの地では、日本と同じ味の“ジャパニーズ・スタイル”と、中国向けに砂糖などを加えた“スイート・タイプ”の2種類が、現地生産のうえで販売されているが、とりわけ前者に独自性があるのだという。日本の食品を海外で製造する場合、現地の嗜好に合わせて味をアレンジするのが一般的だが、

「現地生産では、現地の材料をつかいながらも、日本国内で製造している味になるべく近づけるようにしているんです」

 とキユーピー広報部。すなわち、われわれ日本人の味覚こそが最高だと判断して、その味で勝負しているのである。

「欧米では、卵黄と卵白の両方をつかった全卵タイプのマヨネーズが主流ですが、キユーピーのものは卵黄のみで作っていて、コクや旨味が強くなっています」

 このような“日本人の味覚”に対する高い評価が如実にあらわれているのが、海外の通販サイトだろう。フランスで広まった、まごうかたなき“欧米の味”であるはずのマヨネーズだが、アマゾンなどでは日本製が、長期にわたって売れ行きランキングのベストテンに入っているのだ。

(3)へつづく

「特別読物 外国人がうなる『メイド・イン・ジャパン』日用品の実力――白石新(ノンフィクション・ライター)」より

白石新(しらいし・しん)
1971年、東京生まれ。一橋大学法学部卒。出版社勤務をへてフリーライターに。社会問題、食、モノなど幅広く執筆。別名義、加藤ジャンプでも活動し、マンガ「今夜は『コの字』で」(原作)がウェブ連載中。

週刊新潮 2016年3月31日号掲載

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