「ランドセル」に見る“MADE IN JAPAN”の行く末 家電メーカーのようにはならないか 外国で高評価メイド・イン・ジャパンの日用品(3)

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 爪切りや文房具、食品を包むラップなど、日本製の日用品はその品質ゆえの高い評価を海外で得ている。その一方で、現地向け商品と性能は変わらないオムツをあえて日本で買ったり、現地の嗜好に合わせた品よりも“日本味”のマヨネーズを求めるといった“MADE IN JAPAN神話”に洗脳されたかのような購買行動も見られるのだ。

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ファッションアイテムのひとつとして注目されているランドセル

 さて、ここで、いま海外で独自の評価を獲得しつつある新たな“日用品のMADE IN JAPAN”を紹介しよう。ランドセルである。海外のセレブが、ファッションアイテムのひとつとして、ランドセルをリュックのように背負った写真をSNSにアップしたことも追い風になり、

「ここ1、2年で注目度が上がっていますね。量販店や免税店でも人気が高まっています」

 と、かばんメーカー「協和」の若松秀夫専務は言う。

 ご存じのように、ランドセルは日本独自の通学かばんである。ルーツこそオランダの背嚢、すなわちオランダ語の「ランセル」だと言われているが、ほぼすべてにわたって日本オリジナルの製品だ。そもそもは物珍しさから人気が出たようだが、現在は、実用に向けて購入されるケースが増えているという。

 むろん、それなりに高額の商品で、平均的な価格帯は国内でも4万円前後になるのだが、

「A4判のファイルがきちんと収まり、形がしっかりしているのに軽い。それに左右の肩ベルトが自在に動くところなど、海外の通学かばんには見られない実用的な工夫が、随所に凝らされています。また、耐久性も評価されています。当社の場合、6年保証をつけていますが、6年間使いつづけられる通学かばんは、毎年通学バッグを新調する海外の人にとっては、驚異的なようですね」

 海外で評価される理由を、若松専務はこう話す。

■懸念材料も……

 きものを着ての初もうでや、浴衣を着ての夕涼みに匹敵するほど、ランドセルを背負って登校する小学生たちは、日本固有の光景を形作っていた。それが“国際化”すると、いったい誰が想像しただろうか。

 現在、ランドセルは台湾や韓国にも定期的に輸出され、その数は毎年、順調に増えている。実際、それらは海外でも小学生が通学に使用しており、アジアばかりか、アメリカでもヨーロッパ諸国でも、ランドセルを背負った小学生を見かけることが増えてきた。

 だが、懸念材料もある。近年、低コスト化をはかって、ランドセルを海外で生産する日本企業が現れてきたが、その場合、製品のクオリティが国産品とは比較にならないほど低いのだという。そもそも、ランドセルは大半が手作業で製造され、職人の熟練度がその質を左右するといわれる。そのうえ若松専務によれば、

「見かけこそ前年のものと一緒でも、1年たてば中身がまったく違うというほど、毎年改良されています」

 なおも少子化が進むいま、小学校に入学する児童の数は、毎年せいぜい100万人を少し超える程度。市場規模は、決して大きいとはいえない。

「そんなマーケットに粗悪品が出回れば、日本のランドセル文化そのものが、危機を迎える可能性があるということです」(同)

■「検査係」でいられるか

 示唆に富む指摘ではないだろうか。いまや世界を席巻しつつある“日用品のMADE IN JAPAN”だが、このまま快進撃を続けるのか、それとも、家電メーカーのように失速してしまうのか、実はいま、岐路にいるのかもしれない。

 デフレのなか、過度なまでにコストを重視し、低価格に執着すれば、産業は衰退する。“とりあえず安く提供しよう”という流れでは、“MADE IN JAPAN”は、単なる製造国表示になってしまう。その危険性を、ランドセルの事例は示している。

「日本企業の基本的な哲学は、労働者一人ひとりが、みな検査係だということである」

 とは、ソニーの創業者の一人、盛田昭夫の言葉である(『MADE IN JAPAN わが体験的国際戦略』)。作り手が高い意識を持ち、製品一つひとつの出来に責任を持つ。そうして、少ない資源から可能なかぎり優れた製品をつくる。それが、かつて世界に認められた“MADE IN JAPAN”にも、いま脚光を浴びる“日用品のMADE IN JAPAN”にも、共通する態度だったのではないだろうか。

“MADE IN JAPAN”は、これからも信頼を勝ち得るか。それは効率主義に陥ることなく、作り手がみな「検査係」の自覚を持って製品づくりに携われるかどうかにかかっていよう。そして、それができるのであれば、“MADE IN JAPAN”の意味は、これからも進化するのではないだろうか。

「特別読物 外国人がうなる『メイド・イン・ジャパン』日用品の実力――白石新(ノンフィクション・ライター)」より

白石新(しらいし・しん)
1971年、東京生まれ。一橋大学法学部卒。出版社勤務をへてフリーライターに。社会問題、食、モノなど幅広く執筆。別名義、加藤ジャンプでも活動し、マンガ「今夜は『コの字』で」(原作)がウェブ連載中。

週刊新潮 2016年3月31日号掲載

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