「頭部を撫でる」動画を撮影 精神科医が読み解く「ススキノ頭部切断事件」瑠奈容疑者の復讐欲求と「親を支配する」歪な家庭環境

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「限界設定」と「人権意識」

 片田氏によると、精神科医である父親が娘の犯行を制止できなかったのには2つの理由が考えられるという。

「一つは精神科医なら心がけるべき『リミットセッティング(限界設定)』ができなかったことです。精神科医の仕事とは患者に寄り添い、患者の話に耳を傾け、かつ可能な範囲で要求や希望などに応えることですが、それだけでは不十分。一定のラインを越えた要望に対しては、これ以上容認できないと伝える“線引き”も必要で、『リミットセッティング』と呼びます。なぜかといえば、そうしないと、たとえば過剰に薬を処方するなど、患者の精神や健康を害する結果を招来しかねないからです」(片田氏)

 つまり精神科医であれば、歯止めをかける必要性は自覚していたはずだが、今回の事件において修容疑者がリミットセッティングを行った痕跡は見られないという。

 そしてもう一つが、父親の「人権意識の高さ」が状況を悪化させた可能性だ。修容疑者が精神科科長として勤めていたのは、日本共産党系の全日本民主医療機関連合会(民医連)に加盟する病院だった。修容疑者自身、共産党への寄付歴があり、また精神科医としてホームレスやアルコール依存症患者、海外派遣自衛官らの心のケアに熱心に取り組んでいたことで知られる。

「凶行へと至るまでの過程で、娘の精神状態が不安定だと見て取れば、本人の同意がなくても家族が保護義務者として同意すると入院させられる医療保護入院なども、精神科医なら考慮して然るべきだった。娘との信頼関係を優先したかったのかもしれないが、結果的に事態は最悪の方向へと向かってしまったように見えます」(片田氏)

「多重人格」の真贋

 親子関係が機能しなかったのはなぜか。

「両親は周囲に“娘のやりたいことをやらせてあげたい”などと語っていたと報道されており、瑠奈容疑者に愛情を注いでいたのは確かだと思います。ただ溺愛家庭においては親が子供の言うとおりに従い、子が“暴君”のようになって親を支配してしまうケースは珍しくありません」(片田氏)

 肝心の動機については現時点で不明な部分も多いが、瑠奈容疑者は取り調べに対し「私とは別の人格を持った人間がやった」といった趣旨の供述をしているという。しかし、この点については注意が必要だと片田氏は話す。

「多重人格を匂わせる情報ですが、過去、責任能力がないことを強調するために容疑者が多重人格をアピールしたケースが海外で議論を呼ぶなど、現在では多重人格の概念そのものに批判的なまなざしが向けられています。私自身は瑠奈容疑者が何らかの精神疾患を抱えている可能性は高いと考えますが、容疑者の供述を額面通りに受け取るのは危険です。今後、第三者によって行われるであろう精神鑑定の結果を待ちたいと思います」

 事件の全容解明にはまだ相応の時間がかかる見通しだ。

デイリー新潮編集部

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