「安倍総理」親族が経営の塾を文科省が後援 “AO義塾”代表のペテン

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安倍総理

 ネジもギターの弦も、長く使うと自然と緩んでしまうから、時に点検が必要だ。人間も同じである。12月5日で在任期間が1807日と、中曽根康弘氏を抜いて戦後4位になった安倍晋三総理も、つい気の緩みが出てはいないか、いちど確認してみる価値はあるだろう。いや、まさか朴槿恵大統領のように、一部の“身内”への利益誘導に走ったりはしていないだろうが。

 とはいえ、総理の看板を利用したい人がいれば、その看板に“配慮”する人もいることは、認識しておいても損はないかもしれない。

 たとえば、今年3月23日から25日の3日間、「全国高校生未来会議」というイベントが、衆院第1議員会館、および最終日は首相公邸という大層な会場で開催された。選挙権年齢が18歳に引き下げられるのを受け、全国から選抜された中3から高3の約120人が、地域興しプランを競ったり、自民党の谷垣禎一幹事長や民主党の岡田克也代表(ともに当時)ら、各政党幹部の演説を聞いての模擬投票を行ったりしたのだ。

■安倍総理の親族

 文科省と総務省が後援し、優秀者には総務大臣賞や地方創生担当大臣賞、さらには内閣総理大臣賞まで贈られるなど、いわば“国を挙げて”バックアップしたこのイベントを主催したのは、斎木陽平という24歳の若者が代表を務める「リビジョン」なる一般社団法人だった。イベントが開催されるまでの経緯を、文科省幹部が声を潜めて語る。

「“未来会議”の後援については2013年秋に初めて打診があって、当初は検討に値しないとされました。高校生のイベントは数多いのに、ひとつだけ後援するのはまずいからです。ところが昨年9月16日、当時の下村博文大臣から“全国高校生未来会議を首相直下の事業としてやってほしい”という指示が下った。“主催はリビジョンで”との話でした。安保法案ですったもんだの時期に、急に“高校生の活力”や“AO入試の育成”と言いだして、省内ではみな“なにが起きたんだ”と思いました」

 そのとき“情報”がもたらされたという。

「リビジョンの斎木代表は安倍総理の親族だ、と聞かされ、みな仰天したんです。文科省はいろんなイベントに公平であるべきだし、リビジョンという法人に活動実績がほぼないことなどから、文科大臣賞の設定だけは拒んだものの、“安倍総理の親族だから仕方ない”という言葉の下、後援を余儀なくされたのです」(同)

 山口県長門市のさる市議に尋ねると、

「斎木家はこの地域で代々医者の家系で、陽平くんの曾祖父は長門市長を務め、祖父の秀彦さんは安倍晋三さんの父親の晋太郎さんの長門地区の後援会長だった。そもそも安倍家とは遠縁にあたると聞いています」

 総理ご自身は知ってか知らでか、周囲はこうも総理の“看板”に配慮するものなのだ。それでもイベントを通して、高校生たちが政治について真摯に考える機会を得られたなら、だれが主催しても構わないかもしれないのだが――。

 ちなみに、未来会議に全国から集まる若者たちの交通費や宿泊費は、クラウドファンディングを利用して寄付が募られた。斎木氏は毎日、フェイスブックで寄付を呼びかけ、安倍昭恵総理夫人も〈皆さんのお力を貸して頂けるよう、心よりお願い申し上げます〉などとメッセージを寄せた結果、目標を上回る397万円余りが集まっている。

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■AO義塾の広告塔

 ところで斎木氏には塾経営者としての顔もある。10年、慶應大学法学部にFIT入試、つまりAO入試で入学すると、その年末にはAO入試対策が専門の「AO義塾」を立ち上げ、今に至る。その指導内容は後述するとして、件の未来会議では、参加者をAO義塾に勧誘するビラが配られていたのだ。〈未来会議参加者の君へ〉と題され、こんなふうに書かれていた。

〈君たちは選抜を勝ち抜き今日ここへやってきた/しかしそんな君たちに問いたい/国会に来ただけでいいのか?/(中略)さぁ、多くの同志たちと志をもって/AO入試という名の旅に出かけてみませんか〉

 そして〈未来会議参加者3つの特典〉として、〈入塾金3万円が無料に!〉などと記されていたのだ。

 このことの意味を、教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が説くには、

「文科省の後援を受け、クラウドファンディングでお金を集め、首相までが駆けつけた全国高校生未来会議で、こんな勧誘のチラシを配るのは悪質です」

 そのうえAO入試は“未来会議への参加”といった“活動点”があると合格しやすい。なんのことはない、文科省が安倍総理に遠慮し、昭恵夫人が強く後押しして実現した全国高校生未来会議とは、“AO義塾の広告塔”だったのである。

■“実績ロンダリング”

 また、おおた氏は、

「斎木氏はAO入試の素晴らしさを広めたいと言っていますが、実際は逆にAO入試の精神を歪めている」

 と話すが、その意味を説くために、さるAO義塾関係者の話に耳を傾けたい。

「AO義塾の2期生に、高校時代からNPOを作って活動し、おそらくそれが評価されて慶應に受かった生徒がいた。斎木さんはそこに目をつけ、リビジョンを作ったんです。その証拠に、リビジョンの設立趣旨から、当初はHPの文言まで、そのNPOとそっくりでした。そしてAO義塾の生徒をリビジョンで活動させ、その実績をAO入試の志望理由書に書かせる。しかしAO入試は本来、自らの意志でなにか活動をした人を求めているのだから、斎木さんの指導はAO入試の精神に反します。実際、そういう子は大学入学後、まったく活動に参加しません」

 こうした手法を“実績ロンダリング”と呼ぶそうで、“未来会議”はその母体になったのだが、“精神に反する”指導にはこんなものも。保護者が語る。

「今、高3の息子は慶應法学部が第1志望で、AO義塾に通わせましたが、出願ギリギリに講師から“これ、前に合格した人の志望理由書を少し変えてるから、安心して出願して”と言われ、情けないながら出願した結果、不合格でした」

 さるAO義塾出身者はこんな話もつけ加える。

「塾の関係者が生徒たちに“ほかの塾の教材を集めてこい”と指示するのを見てしまいました」

 他塾の関係者も言う。

「私たちが塾で教えていた命より大切な指導ノウハウも、AO義塾に真似されてしまった。また、ほかの塾に通っていて“1回おいでよ”と誘われ、志望理由書にちょっとコメントされただけの生徒が、合格実績に入っていたりするのです」

 昨年度も、初の東大推薦入試で14名の合格者を出したと高らかにうたっていたが、AO義塾生の合格率は全体の合格率とほぼ同じ。事実上、対策に効果がなかったと思しき数字なのだ。

 そしてもうひとり、ある保護者の話を。

「娘が高3になった今年5月、入塾を検討しましたが、斎木先生に会えるまで1カ月。娘と一緒に訪れ、明治大学志望だと伝えると“へぇ、そんな珍しい子もいるんだ”。それでも入塾を決め、T先生に付くことになりましたが、T先生は1回指導しただけで次もその次も休みで、私が塾に電話すると“辞めました”という。斎木先生の説明を求めても、忙しくて連絡がとれないとかで、やっと先生から連絡がきたのは2カ月後の9月。しかも、“T先生と連絡がとれなくて私も困っちゃった”なんて言うんです」

 なお、この詐欺まがいの行為をもいとわない無責任男は政治家志望を公言。10月に立ち上げられた小池百合子都知事の「希望の塾」にも参加している。

特集「『安倍総理』親族だから文科省がエコヒイキするAO義塾代表のペテン」より

週刊新潮 2016年12月15日号掲載

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