もともと全く意味の異なる「歳」と「才」が、年齢を表すようになった理由…校閲者は“漢字の書き分け”にどれくらいこだわるか
こんにちは、新潮社校閲部の甲谷です。
またまた突然ですが、今回もクイズから始めます。
以下の漢字の中で、義務教育で習わない漢字、すなわち常用漢字表にない漢字が2つあります。どれとどれでしょうか?
(1)嘘 (2)艦 (3)虞 (4)鮭 (5)鯨
38歳? 38才?
さて、今回は「代用字」のお話です。上のクイズで取り上げた「常用漢字」とも関連することなのですが、漢字の世界では色々な理由から、ある字を別の字に置き換えて書くという例がかなり多くあります。
例えば年齢表記の「歳」と「才」。これはもともと全く意味の違う字ですが、同じ読みを持ち、なおかつ後者のほうが画数が少ない、などの理由によって「才」が「歳」の代用字となったようです。「甲谷允人は現在、38才です」といった表記は一般的にもよく見られますよね。また「才」は小学2年生で習う漢字なので、それ以降、「歳」を中学校で習うまでは学校教育でも「才」を使うとのこと。
ただ、通信社や各新聞社が記事を書く際に表記の参考にするために配る「記者ハンドブック」の類では、「38才」は原則として使用せず、「38歳」と表記すると書かれており、実際の新聞でも基本的に「歳」の表記が使用されています。書籍などの出版物においてもこれに倣うケースが多いです。週刊誌の記者原稿では新聞と同様、基本的に「歳」しか使いません。「歳」は常用漢字ですし、漢字本来の意味に従う方針が取られている、ということですね。
ただし、文芸作品などではケースバイケースです。小説の会話文の中でもこのルールを適用するかというと、そこまで厳密にする必要がない場合もあるでしょう。
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