「日本で薬を創るのはリスクでしかない」 相次ぐ「薬価引き下げ」で懸念される「新薬が日本に出回らない未来」
この4月で、薬価がまた引き下げられた。医療保険財政のひっ迫を背景に、毎年多くの品目が引き下げの対象となり、また後発薬(ジェネリック医薬品)の普及促進策は強められるばかり。かような環境下で、新薬の開発が阻害されてはいまいか。それどころか、「日本で新薬が買えない」という事態が、現実味を帯びてきているという――。
***
【写真を見る】やがては海外へ…?東京、大阪にそびえ立つ国内製薬メーカーの本社
我が国の薬価は、製造者が自由に設定できるものではなく、「公定価格」として厚生労働省が定めることになっている。ゆえにその“引き下げ圧力”は年々高まっていて、これまでは2年に1度の診療報酬改定時にのみ行われていた価格改定は、今や毎年の恒例行事に。さらに保険適用から15年経過するか、後発薬が登場した品目は原則引き下げられるというのが現行のルールだ。
診療報酬改定がない年に実施する「中間年改定」となった今年の引き下げ対象は46品目。引き下げ率は最大で50%にも及ぶという。
「このような価格改定が繰り返されると、新薬が日本に出回らない未来が訪れるのではないかと危惧しています」
そう話すのは、英国の名門大学「インペリアルカレッジロンドン」で免疫工学の講師を務める石原純氏。世界の第一線で創薬研究を続け、創薬ベンチャーも経営する立場から、日本の創薬環境に対する懸念を説明する。
「研究開発の拠点として、日本はすでに世界から見放されつつあります。レギュレーションが厳しい上に、国に承認されたとしても公定価格が低く設定されがち。その上で引き下げ圧力の強い政策方針があるので、大きなリスクを乗り越えて販売にこぎつけても、投資を回収する目途が立ちづらいのです」
“不確定要素”も大きい日本の薬価事情
そんな国の方針には、思わぬリスクも付きまとうという。
「日本では、一つでも効能が重なれば他社の薬に合わせて薬価が下がる“共連れ”という制度があります。たとえば小野薬品工業の抗がん剤『オプジーボ』も、メカニズムや効能が重なる他社製の薬が引き下げ対象になったことを理由に、何度も共連れの目に遭っていて、同社社長は『関係のない薬のために価格を下げられる制度は理不尽だ』と指摘しています。このような事態が重なると、我々作り手側としては採算プランが立てられなくなってしまう。投資家に明確な説明ができず、資金調達に大きく影響してしまうというわけです」
こうした不確定要素も、日本での開発が敬遠される要因になっているというのだ。
事実、国内の製薬会社にも、開発拠点を海外に移す動きが出始めている。
「グローバル企業化の著しい武田薬品を筆頭に、研究開発の海外比重を高める流れができつつあります。日本企業の新薬がアメリカで先に承認され、その後に日本国内で承認される事例が増えているのもその表れといえると思います」
かくある状況を危惧してか、岸田文雄内閣時代には、国内創薬ベンチャーに対し3500億円もの補助を行う計画が発表されたが、
「出資の対象となった創薬ベンチャーの中でも、アメリカに軸足を移そうという動きが見られます。いくら補助があっても、創薬に適した土壌がない以上、持続可能な事業が行えるとは考えづらいということでしょう」
[1/2ページ]