「ススキノ首切断事件」を想起させる父娘が…“異常すぎる悪役”が光った冬ドラマ 「松本まりかと共演して殺人鬼姉妹をやってほしい」

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 悪役はおいしい。「人ニ非ズ」は非日常で自由だから。今期光った悪役を書こうとしたら、共通項が「親」だった。雑にまとめてみる。

●とろける笑顔の殺人鬼

 佐々木希主演の復讐モノ「地獄の果てまで連れていく」(TBS)は韓国産作品に近い、血みどろの惨劇系。幼少期から殺人を犯し続け、罪悪感も良心の呵責(かしゃく)もゼロ、サイコパスな娘・麗奈を演じたのが渋谷凪咲。とろけるような笑顔と鈴を転がすような声で、罪を犯す麗奈を好演。瞳の奥の残虐さと空虚さには鳥肌がたったよ。

 大学教授の父(板尾創路)は娘の異常性に気付いていたものの、なすすべもなく放置。むしろ娘に支配されていたというのが、札幌の首切断殺人事件の父娘を想起させた。凪咲は、サイコホラー女優の先達・松本まりかと共演して、ぜひ殺人鬼姉妹をやってほしいな。

●けれん味女王がカムバック

 関水渚主演の「家政婦クロミは腐った家族を許さない」(テレ東)で、セレブ女社長役を演じた藤原紀香。仰々しい金持ちやうさんくさいセレブがしっくり。DV&金の無心で相当クズな元夫役を丸山智己、二人の間に生まれたサイコパス息子を阿久津仁愛が演じていた。

 今回の紀香はDV夫から逃げて、顔を整形した設定。経営の才を生かして富を築いたものの、再婚後の家族は無関心と憎悪が同居しているようなもの。ええと、紀香は悪役というか被害者であり、加害者でもあり。会社経営は成功したが、家族運営に大失敗した様をけれん味たっぷりに演じていた。

●極端な距離感の母親たち

 川口春奈と松村北斗が弁護士の恋愛モノを展開した「アンサンブル」(日テレ)。各々トラウマを抱えた二人の恋は周囲に阻まれたり、背中押されたり。本筋はさておき、この二人の母親がどうにもこうにも気になって。春奈の母を演じたのは瀬戸朝香。悪役じゃないが、距離が近過ぎてゾッとしたのは私だけ? 娘の家に入り浸り、娘を傷つけた元カレ(田中圭)との復縁を望んだり。もう最初からホラーだなと思ったのだが、誰も気にならない様子。母娘の距離が近過ぎる一方、北斗を捨てた実母(浅田美代子)は悪態ついたり、金をせびったりでこっちはこっちでひどすぎる。ラブストーリーよりも、母親の立ち位置がよく分からなくてねぇ。

 昨今のドラマで描かれる親子の距離感がどうも飲み込みにくくて、嚥下(えんげ)障害気味。私の感覚が古いのかな。じゃ、どんな距離感がいいかというと、丁度いい例があったので切り抜きしとく。

●若気の至りをあえて制止

 そのうちちゃんと書くつもりの大河「べらぼう」(NHK)。感情に任せて走る若者をあえて残酷な仕打ちで制したのが女郎屋の松葉屋夫妻(正名僕蔵と水野美紀)だ。主人公・蔦屋重三郎(横浜流星)と幼なじみの花魁(おいらん)・瀬川(小芝風花)の恋を夫妻があえて断ち切った第9話。正名も水野も悪役然とした面構えではあるが、実に深い愛だった。親ではないが、親代わりの夫妻が「親心」の本質を体現したような気がしたんだよ。

 悪役を通して見えた親の在り方。正解はないけどね。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年4月10日号掲載

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