有料読者「1000万人超」ニューヨークタイムズがサブスクで成功した最大の理由と“その次” カギを握る「10%の読者」のニーズとは
無料のニュースサイトで広告収入を得るモデルに限界を感じ、読者に有料課金を求める「サブスク型」へと舵を切るメディアが現れている。その成功例として世界的に注目されているのが、米紙ニューヨークタイムズだ。同紙の成功要因とは一体何なのか。それに続く成功例はあるのか。海外の権威あるメディア研究者が明かした。取材・文=湯浅大輝(フリージャーナリスト)
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世界中のメディアが、自社サイトの会員獲得に四苦八苦している。
ロイタージャーナリズム研究所(Reuters Institute for the Study of Journalism)研究員で英BBCのデジタルシフトに貢献した主要人物の一人、ニック・ニューマン(Nic Newman)氏によると、
「世界の主要な国でニュースに課金する読者は全体の10%程度で、大卒以上のエリートが中心。社会問題に対する関心が高い人や企業の意思決定層、文学や映画、音楽などの芸術を愛する人たちです。この『10%の読者』のニーズをいかに捉えられるかにサブスクの成功の可否がかかっています」
無論、その「10%」を引き込むのは容易ではなく、
「基本的に、ニュースそのものは『コモディティ化』しており課金してもらうのは至難の業です。日本で言えばYahoo!やLINEといったプラットフォーム上で記事を無料で読めますから。そうした中でお金を払ってもらおうとすれば『他では絶対に読めない』記事を掲載するしか方法はありません」(同)
カギは「多様性」
欧米の10%の「インテリ」は具体的にどんな媒体を購読しているのか。その成功例の一つといわれているのが、デジタル有料購読者約1080万人を抱える米紙ニューヨークタイムズ(The New York Times、以下NYT)である。
ニューマン氏が注目するのは、NYTが紙媒体の慣習に固執せずデジタル課金読者にとって魅力的なコンテンツを磨き上げた点だ。具体的には、コンテンツの多様性だという。サブスク読者は、調査報道や政治経済の長文分析記事といった、従来の新聞社が重視していた「真面目なコンテンツ」を読むためだけに課金を継続することは少ない。ゲームや料理、スポーツのようなライフスタイル系のコンテンツや、筆者の顔が見える「オピニオン」的記事を充実させることが読者離れを防ぐために不可欠だというのだ。
「NYTはスポーツ専門誌の『The Athletic』と家具・家電の批評媒体の『The Wirecutter』を買収しています。前者はサッカーや野球など主要スポーツの選手移籍報道や分析記事、試合に関するレビュー記事を手掛け、後者は家具・家電商品の詳細なレビューを忖度なしで掲載する。NYTのサイト上で、政治経済の骨太な報道とは毛色の違うこれらのコンテンツを楽しめることで、若年層を含めた多様な読者にリーチできています」(ニューマン氏)
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