自民党が日本郵政“650億円”支援策をぶち上げた理由…自民党の集票マシンと化した「全国郵便局長会」の闇 元局長が“16億円”巨額詐欺事件に手を染めたことも

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 日本郵政グループが揺れている。顧客情報の不正流用や郵便配達員が業務中に飲酒運転をするなど、組織ガバナンスの緩みが顕著となっている。

 そんな中、いま開かれている通常国会の後半戦では、郵政民営化法の改正案が提出される予定だ。改正案では、全国の郵便局を維持するために国が“支援”する施策が検討されている。国が保有する日本郵政株の配当金を国が受け取らずに、日本郵政への交付金とする、などというもの。その額、実に年間約650億円。郵便局の人件費などに充てるというが、本来なら国に納められる巨額の公金が、一企業への支援へと振り向けられる格好だ。

「実は、国による財政支援は局長会が自民党に要望していた政策でした」

『ブラック郵便局』

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 と、語るのは著書『ブラック郵便局』(新潮社)で知られざる郵便局の実態を明らかにした西日本新聞記者の宮崎拓朗氏。宮崎氏は6年以上の時間をかけ、内部を徹底取材。従業員30万人超の巨大組織の裏側を詳らかにした。

 宮崎氏が語る「局長会」とは何か。『ブラック郵便局』によれば、正式名称は全国郵便局長会。全国約2万4000の郵便局のうち、窓口業務を担う町中の小規模局(約1万9000局)の局長たちが組織しているのが局長会だ。約1万9000人の局長のほぼ全員が加入している「任意団体」で、一見、労働組合のようでもあるものの、法的な位置づけはなく、法人ではないため登記もされていない。極めて特異な組織なのだ。

 しかし、この局長会が政治に絶大な影響力を持っているのである。

「全国には2万4000の郵便局があり、これを維持するには毎年1兆円程度の費用が必要です。郵便事業が赤字に転落し経営が厳しくなる中でも、この郵便局網の統廃合を避け、維持したいというのが局長会の本音だと推察しています。それを実現するために、局長会は財政支援を要望してきたのです」

自民党にとっての集票マシン

 実は日本郵政の増田寛也社長が一昨年5月、日経新聞のインタビューで、郵便局について2040年ごろをめどに「整理が必要になる」と述べたことがあった。経済合理性からすれば、極めて真っ当な発言だが、これが内部で騒動に発展したと、宮崎氏が続ける。

「この発言に局長会は猛反発しました。結果、増田社長は社員向けにメールを送り、事実上釈明に追い込まれました。なぜ、局長会がこれほどの力を持っているかというと、政治と近く、自民党にとっての集票マシンにもなっているからなんです」

 局長会は参院選の度に全国比例から組織内候補を一人、擁立する。『ブラック郵便局』にはその局長たちの“熱心すぎる”「選挙活動」が克明に描かれている。その一つが「ランクアップ活動」だ。
 
 局長たちは自民党公認を得た組織内候補の後援会員になってくれた人に対し、投票してくれそうな順に「A」「B」「C」などとランク付けしている。そして、一人でも多く組織内候補への投票可能性の高い「A」になってもらえるよう、休日返上で後援会員に働きかけをしている。ある年のゴールデンウィークはランクアップの統一活動日に指定され、連日、後援会員宅への訪問を行った。そこで組織内候補への投票を依頼するのだが、選挙期間ではないため、公職選挙法が禁じる「事前運動」に抵触する可能性もある。

 本書の中には、局長のこんな言葉が掲載されている。

「得票数は、局長にとっての通信簿。目標をクリアできていなければ、反省文を書かされ、厳しい指導が待っている。ノルマを達成できて嬉しいというより、ほっとしたという気持ちしかないです」

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