話題の香港アクション映画にも登場 「世界一危険な空港」100周年で名物の“低空飛行”が復活 「香港カーブ」を懐かしむ声も

国際

  • ブックマーク

 3月30日の午後、香港の中心地では大勢の人たちが空を見上げていた。彼らが待っていたのはキャセイパシフィック航空の特別便CX8100。やがて、香港国際空港を離陸したエアバスA350は、香港島と九龍半島のあいだにあるビクトリア湾の上空を飛んだ。その高度は1100フィート(約335メートル)。高層ビルと旅客機のツーショットが実現する高度だ。

 見物客がカメラを構え、歓声を上げた理由は、1998年7月まで運用されていた啓徳(カイタック)空港にある。この「低空飛行」は、啓徳空港の開港100周年を記念するためのものだった。閉港から今年で27年。いまもなお高い人気を誇り、数々の伝説が語り草となっている啓徳空港とは、いったどんな空港だったのだろう。

建物の間に巨大な旅客機の腹が見えた

 昨年に香港で公開され、日本ではロングラン上映中の香港アクション映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」。作中で主人公たちが眺めていた空港こそ、在りし日の啓徳空港である。映画の舞台となった実在のスラム街、九龍城砦から南へ2kmほどの場所に位置するこの空港は、当時の香港を代表するランドマークの1つだった。

 九龍半島の東の“付け根”あたりから南東の海側に突き出た1本の滑走路は、陸側から海側へ(滑走路13)とその逆(滑走路31)で使用できた。ただし、滑走路31は悪天候時などの使用に留まり、大半の便は滑走路13、すなわち海側に向かっての離着陸だ。陸側には標高約500メートルの獅子山(ライオン・ロック)がそびえているため、着陸時のルートは必然的に、山の麓から空港まで密集する低層ビルの上空となる。

「それはもうとんでもない音でしたよ」と言うのは、九龍城砦の近くで暮らしていた香港人のDさんだ。

「キィンという飛行音が近づいたかと思えば、ゴォーっと空から降ってくるすさまじい轟音。その瞬間、周囲の空気はビリッと震えて、上を見上げると建物の間に巨大な旅客機の腹が見えるんです。でも、住人は慣れていたので、平然と歩いてましたね」

香港が豊かになっているという実感

 町中の上空を飛ぶ飛行機は香港の名物だったが、周辺住民たちには多大な苦労を強いた。香港のTVBテレビが閉港当時に制作したドキュメンタリー番組にも、「テレビの音も聞こえない」「店のガラスがビリビリ震える」「耳が遠くなった」といった証言が残されている。それでも閉港の際は、誰もが名残惜しく思ったという。

「啓徳空港の発展は、香港の発展の象徴でもあったんです。滑走路が伸びて、離着陸の数が増え、町中はどんどんきらびやかになっていった。だから真下の住人たちは、騒音に悩む反面、香港が豊かになっているという実感もあったんですよね」(Dさん)

 その通り、啓徳空港は香港の歴史を見守り続ける存在だった。英国植民地時代に開港し、英軍の所有を経て、1936年頃から軍民併用の「啓徳空港」に。当時のロンドン便は飛行時間が9日間だったという。1941年には日本軍に占領され、交差する2本の滑走路が建設された。このとき初めてコンクリートが使われている。

 終戦後は移転計画も持ち上がったが、資金的な理由で白紙になり、現在の滑走路が建設された。建設中の映像を見ると、着陸直前の飛行ルートは現在とほぼ変わっていない。すでに低層住宅はあったが、飛行機が小型だったため問題はなかったようだ。やがて、飛行機の大型化が進む70年代頃から滑走路の延長工事が必要になり、有名な急旋回「香港カーブ」も注目されるようになる。

次ページ:「世界一着陸が難しい」と言われた理由

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。