真打に昇進した「立川幸之進」が語る21年の道のり 「3団体で前座を務めた経験は、かけがえのない財産」

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「悔しさはありません」

 上方落語の「指南書」にも登場する〈急がば回れ〉を彷彿させる椿事だが、

「そんなこと、まったく気にしていません」

 と言うのは当の幸之進だ。

「お客さんから“年数がかかって大変だったね”なんて言われますが、悔しさはありません。移籍した時はワクワクしていましたし、芸協の皆さんが温かく迎え入れてくれましたからね」

 新たな落語のスタイルの違いも学んだそうで、

「立川流は個人のパーソナリティーを重視するので、芸道を“一人でやっていく”という感じ。一方、芸協は寄席におけるつながりが強く“寄席が生活の一部になっている”と、新鮮な驚きがありました。確かに時間はかかりましたが、すごく勉強になりましたよ」

3団体で前座の経験は“かけがえのない財産”

 過去には円楽一門会の両国寄席に、前座として参加したこともあるという。

「漫然と過ごしていたら、経験できなかったと思います。落語界の3団体で前座を務めた稀有(けう)な経験は、私にとってかけがえのない財産。落語界にもさまざまな生き方をしている先輩や後輩がいて、その中でもまれることができた。私自身、人間としての成長にもつながったと感じています」

 幸之進は身長186センチと落語界きっての長身だが、島根県松江市出身で東京唯一の山陰を出自とする落語家という一面も持つ。

「故郷の島根県に落語の文化はなかったので、今後は地元での落語会を増やして落語文化を広めていきたい。もちろん、師匠に恩返しもしたいので、いつか“あいつ、変わってきたな”と言われるような成長を見せられたらと思っています」

 その談幸は「昇進が遅くとも早くとも、真打になった時がその落語家にとってのベストタイミング」とエールを送る。桜も幸之進も、見頃はこれから――。

週刊新潮 2025年4月3日号掲載

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