【べらぼう】教科書で「賄賂政治家」と習ったはずが…田沼意次が正論ばかり吐く理由

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明らかになった盲目の高利貸しの実態

 吉原を代表する女郎、五代目瀬川(小芝風花)を1,400両(1億4,000万円程度)もの大金で身請けした盲目の富豪、鳥山検校(市原隼人)。そのあまりに豪勢な生活を支えていたのが、幕府から盲人への優遇策として認められていた高利貸しだった。しかし、「座頭金」と呼ばれる盲人のあくどい高利貸しのために、多くの人が追い詰められている実態が次々と明らかになった。NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の第13回「お江戸揺るがす座頭金」(3月30日放送)。

 幕府で座頭金を問題視したのは、老中の田沼意次(渡辺謙)だった。勘定吟味役の松本秀持(吉沢悠)には、鳥山らの屋敷や身代を調査させ、江戸城西の丸(将軍の世継ぎや隠居の居所)で献上品などを管理する長谷川平蔵(中村隼人)には、座頭金に手を出している者が西の丸にいないかどうか調べさせた。

 その結果、松本からは、借金を返せない者が家督を乗っ取られることさえある、という報告が上がる。また、長谷川によれば、西の丸では小姓組の旗本の森忠右衛門が、借金を返せないのを苦に逐電したという。

 事態を解決するために、意次は策を講じた。将軍徳川家治(眞島秀和)のもとを嫡男の家基(奥智哉)と、老中首座の松平武元(石坂浩二)が訪れると、そこに意次が現れ、森忠右衛門(日野陽仁)と息子の震太郎を招き入れ、説明をさせた。森によれば、俸禄つまり給料だけでは家族を養えず、座頭金に手を出したところが、高利のために借金がどんどん膨張し、ついには家督を譲るように脅迫され、切腹を覚悟。だが、息子に止められて逐電し、出家したという話だった。

教科書では「賄賂政治家」だったが

 そのうえで意次は「森は遊興とは無縁。常に質素倹約を心がけてきた者が、ここまで追い詰められたのにございます」と訴え、座頭金に手を染めている西の丸の関係者の名簿を家基に見せた。そしていった。「高利貸しを行う鳥山らを、一斉に取り締まらせてはいただけませんでしょうか」。

 松平武元が、盲人の優遇策は神君家康公の意向だ、と反発すると、意次は声を荒げて熱弁をふるった。本当に弱い盲人には手を差し伸べるべきだ、という前提で、「不法かつ巧妙な手口でかような蓄財をなしえた検校らは、もはや弱き盲ではない! いま徳川が守らなければならぬ弱き者は、どこのだれなのでございましょうか」と。意次のこの言葉は将軍を動かした。家治は「余は徳川家臣および、検校に金を借りておる民草を救うべきと考える」と述べ、息子の家基に「そなたはどうじゃ?」と問うた。

 この田沼意次の訴えは至極真っ当である。それに、これまでも『べらぼう』では、意次は常識人として描かれてきた。だが、違和感を覚える視聴者もいるのではないだろうか。かつて田沼意次といえば、教科書でいつも「賄賂」とセットで表記され、悪徳政治家のイメージが定着していたのだから。

 また、ドラマ等に登場してもたいていは、時代劇の定番の「悪代官」よろしく、欲深い目つきで小判が詰まった菓子折りを受けとる人物だった。

 ところが、悪徳政治家という評価は、いまではかなり修正され、まったく異なる田沼意次像が明らかになっている。

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