企業の9割が引き上げで「初任給30万円」時代の到来…「新入社員」と「氷河期世代」との絶望的な“賃金格差”は解消できるのか

ビジネス

  • ブックマーク

 新年度を迎える中、大手企業の初任給引き上げが相次いでいる。三菱UFJ銀行や野村証券は初任給を30万円に引き上げ、大和ハウス工業は10万円ものアップを公表した。いまや「初任給30万円時代」とも言われる中、企業はいかに対応すればいいのか。労働市場の動向に詳しく『ほんとうの日本経済』(講談社)などの著書があるリクルートワークス研究所研究員・アナリストの坂本貴志氏に訊いた。

 初任給の引き上げについては、最近急速に動きが強まっているように見えます。実際、データを見てみると、人事院が公表している大卒初任給のデータでは、2024年の最新データで22万円となっており、前年の21.1万円から跳ね上がっています。2025年の数字はさらに大きくジャンプアップすると予想されます。

 また、初任給の引き上げ率に関するデータもあります。リクルートワークス研究所のデータでは、2023年には引き上げを行う企業の割合が全体の9割弱にまで達しています。このように、近年急速に初任給を引き上げる動きが広がっていることが、データからも裏付けられています。

 なぜこのような動きが顕著になっているのでしょうか。背景には人手不足の問題があります。特に若年人口が徐々に減少していく中で、人材獲得競争が激化し、企業は魅力的な待遇を用意しなければ人材を採用できない状況になっています。市場の需給バランスから、賃金を上げないと人が採れないという状況に企業が直面しているわけです。

 ただし、この動きは突然起こったわけではありません。時系列で見ていくと、少しずつ兆候があったことがわかります。2019年に働き方改革関連法が施行され、長時間労働の是正や残業削減などの待遇改善が進められてきました。

 労働環境が徐々に改善されていく中で、労働者側の要望が「もっと働きやすく」から「高い賃金」へと変化してきているのです。そして、人手不足で若い人材の採用に腐心する企業が、労働環境の改善から賃金そのものの引き上げへと方針を転換してきたと言えるでしょう。

次ページ:大卒人口が顕著に減少

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。