スシロー、すき家、サイゼが「美食の街」で大奮闘… 日本の外食チェーンは現地民の胃袋をどう掴んだか

  • ブックマーク

 ジャパン・アズ・ナンバーワンと称された時代と比べると、近年の日本の世界での存在感は影を潜めている。だが香港を訪れた消費経済アナリストの渡辺広明氏は、日本の外食産業に新たな可能性を感じたという。“美食の街”に根付いた秘密をレポートする。

 ***

 1990年代に海外を訪れると、日本に誇りを持つことが多かった。街中を日本車が走っていたし、日本のメーカーの白物家電の広告をいたるところで目にした。ところが今や日本が蚊帳の外のEV車が増え、中国や韓国製の携帯電話ものに広告は取って代わった。かろうじてアニメコンテンツが頑張っている……という現状に寂しさを覚えるのは私だけではないだろう。

 だが今回、香港で「日本の外食」のポテンシャルを感じた。

 九龍(カオルーン)のメインストリートであるネイザンロードを歩くと、日本資本の外食チェーンを至るところで見かけた。住宅エリアである黄埔(ワンポア)も同様で、街中で日本のチェーンを目にした。外資企業である日本のチェーンが“美食の街”香港で成功し、現地の人びとの生活スタイルに根付いている現状をレポートしたい。

香港の外食事情

 香港の住宅はキッチンの狭いマンションであることが多く、日本以上に「食事は外で」という意識が一般的であるという。そのため飲食店の数も多い。

 庶民の食生活を支えるローカルの食堂は「チャーチャンテーン」と呼ばれている。何軒か回ったが、メインメニューである甘辛い焼き豚をご飯に乗せた叉焼飯(チャーシューファン)が約700~1,000円、ワンタン麺は約600~900円というのが平均的な価格帯だった。物価水準の違いがあるにせよ、日本でいえば地方都市の飲食店くらいのプライスラインといえるだろうか(1hkドル=20円で計算)。ちなみに、ほとんどの店で「オクトパス」という交通系電子マネーアプリで支払いができる。

 この「価格帯」に、日本の外食チェーンが戦いやすい理由があると感じた。まず、香港で人気の“日本外食三羽烏”であるスシロー、すき家、サイゼリヤをレポートしてみよう。

スシロー、人気の秘密は…

 香港の街中で特に見た日本のチェーンがスシローだった。香港の都市部の広さは東京23区のだいたい45%ほどで、そこに30店舗前後を出店しているというから、スシローの看板を至るところで見たのも納得である。食事どきは、どの店舗も大行列ができていた。

 人気の理由はいくつかあり、寿司文化が定着したことや日本直送・日本品質など日本への信頼の厚さがあるとまず見受けられた。ほかにも、約240円のイカ(2貫)から、約440円の鯛(2貫)という、お手頃からちょっと贅沢にも対応できる価格、皿に乗る寿司のSNS映え、何より日本流の丁寧な接客も支持される理由にありそうだ。

 だが、回転寿司ゆえのメニューの多さ、という点が何より大きいようだった。香港のローカル食堂はとにかくメニューが多い。さらに料理のトッピングや飲み物の甘さなど「個人の好みにあわせられる」ことが人気店の必須条件となっている。その点、回転寿司は様々なネタを取り扱うし、自分の好きなものが食べられる。回転寿司は、香港の食文化にバッチリハマっているといえる。

次ページ:すき家とサイゼの戦略

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。