一夫多妻「ハーレム館」事件の被告が自宅で“連続自殺”していた 「保釈」を認めた裁判所の判断に、識者は「考えられない」と指摘

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今なお住居には女性たちが……

 若狭弁護士が解説する。

「現行の法律制度のもとでは勾留は難しい。勾留は主に、証拠隠滅もしくは逃亡の恐れがある場合に認められます。ただし法律の条文には『自殺の恐れ』が勾留を続ける条件として明記されていないので、証拠隠滅か逃亡の中に自殺を含めるかどうかがポイントになります。被告人の供述は大きな証拠なので、その本人が自殺をしてしまえば裁判ができなくなる。検察はこれまでもその理屈で勾留を認めるよう主張をしたことがありますが、裁判所は証拠隠滅や逃亡の中に自殺を含めるという解釈は取っていないのが現状です。この状況を打開するには法改正しかないですね」

 保釈中に被告がいくら自殺をする可能性が予見されたとしても、それを理由に裁判所は勾留することができず、仮に自殺をして公訴棄却になってもその責任も問われないということだ。

 捜査関係者は語る。

「今回は被告2人が亡くなりましたが、ではたとえば被告が4人いて、3人までが自殺していた場合、裁判所は残りの1人も自殺するのを黙って待つのでしょうか。やはりどこかで勾留をする必要があると思います」

 今回の事件以外にも、被告が自殺をして裁判がお蔵入りになったケースはある。現行の司法制度では、その度に捜査や裁判にかかった労力や時間は水泡に帰するだろう。

 その現場は今にも雨が降り出しそうで、空は鈍色の雲に覆われていた。

 3月上旬のある夕暮れ前。

 山林に囲まれた住宅地に建つ白い一軒家のゲートに、ワゴン車が滑り込んできた。ドアを開けて出てきた女性3人はいずれも帽子にサングラス、マスクを着用していた。私の姿に気づいたのか、うち2人が慌てて自宅の方へ駆け込んだ。運転席に座っていた最後の女性に声を掛けたが、無言のまま「立ち入り禁止」と書かれたロープを引っ張り上げ、急ぎ足で歩いていった。彼女たちにとっては「教祖様」のような存在だった博仁被告をはじめ、同居人3人を立て続けに失った今も、そこでの日常はひっそりと続いているようだった。

水谷竹秀(みずたにたけひで)
ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊は『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。昨年5月上旬までウクライナに滞在していた。

デイリー新潮編集部

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