東大の学費値上げに“賛成論”が出るワケ いまや「富裕層」の大学 就職先も軒並み高賃金

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多額の資金が必要に

 国内最難関の国立大学である東京大学がこの春、20年間据え置いてきた学費を値上げした。文部科学省の規定で国立大学の入学金は28万2000円、年間授業料は53万5800円(標準額)と決められていたが、変動許容範囲の上限である20%増額の結果、それぞれ33万8400円、64万2960円となった。すでに一橋大や千葉大などは20年4月から順次値上げしてきたが、国内最高峰の東大も後に続くことになった。

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 昨年9月に大学側から値上げが発表されるとさっそく学費値上げに反対する立て看板が駒場キャンパス内に出現するなど一部学生からの反発を買ったのだが……。

 受験に詳しい教育ライターがこう明かす。

「光熱費や人件費、物品などが一斉に値上がりする中、東大だけ学費を据え置くことには限界があります。2027年に東大は創立150年を迎えます。それに合わせて築100年が近づく駒場キャンパスの1号館(時計台)や駒場図書館2期棟、多様性や包摂性研究の拠点となる本郷キャンパスのD&I棟の改修や建設事業、大学のシンボルである赤門の耐震工事、キャンパス内各地のトイレの美化などを、急ピッチで進めており多額の資金が必要となっているのです」

 値上げに際し東大が発表したメッセージはこうだ。

≪教育学修環境を格段に改善し、文字通り世界から学生を惹きつける世界最高水準の学びを不断に追求していかなければならない。その意味において東京大学でこれから学ぶ学生のための教育学修環境の改善は『待ったなし』である≫

 20年間も待ち続けた学費値上げの決断。国内最高峰の大学だけに「東大よ、お前もか」の嘆きも聞こえてきそうだが、東大の学費値上げに対して教育・受験業界からは意外にも肯定する意見が出ている。

 大手予備校講師がこう話す。

「今年の東大合格者数ランキングを見ても、開成、麻布、灘、渋谷教育学園幕張、桜蔭など私立の中高一貫校が目立ちます。例えば開成の2024年の中学の学費は入学金が32万円、施設拡充資金が12万円、授業料が年間約50万円。そのほかに施設維持費、実験実習料、生徒会費などで合計112万円ほど。入学時には第1学年に限り1口10万円で1~2口の寄付を依頼されるのでこれを含めると130万円を超えます」

国からの資金はダントツ

 それだけではない。中学に入学すると多くの生徒はすぐに東大進学専門塾である鉄緑会(東京・代々木)に通うためこちらにかかる費用も膨大だ。

「鉄緑会のレギュラーコース3科目の場合、教材費を含め年間140万円ほど。河合塾の東大専門コースや駿台予備学校の東大対策コースも同じく100万円はかかります。授業料と塾代を含めると中高の6年間で合計1300万円から1500万円が必要。今や、東大は富裕層の子どもでないと入学できない時代になっているのです。東大を卒業すれば外資系コンサルや大手総合商社、金融、IT系企業に就職し高給取りが約束されているわけですから学費が高くて当然だと思いますね」

 昨年度から東京都では所得制限を撤廃し私立を含めた高校の授業料を実質、無償化したが、今後は授業料や塾代の値上げも予想される。加えて東大には国から多額の資金も注がれている。税金を原資とする国立大学法人運営費交付金は東大がダントツに多く822億円。2位・京都大学の561億円、3位・東北大学の458億円、4位・大阪大学の447億円と比べるとその巨額さが分かるだろう(令和元年度当初予算額)。

 富裕層の子弟が通う東大に多額の税金が注ぎ込まれていることに納得がいかない納税者も多いのではないだろうか。とは言え、日本が世界と伍していくためには優秀な人材の育成は不可欠だ。それなのに官僚を志望する東大生は近年激減しており、破格の高給で知られる外資系コンサルへの就職者が増加の一途だ。

 ただ、現役の東大生の姿を知ると少し違う景色が見えてくる。

「学生に聞くと、物価高による仕送りの相対的目減り、それによる家庭教師などアルバイトの増加、日々の授業の課題などでけっこう疲れている学生は多いです。特に地方出身者は仕送りが12万から13万円ほどでアパートの家賃を払うとそれほど余裕はありません。また理系学部は大学院進学者が多く勉強の日々。夕方の5限の授業が終わると安いメニューがそろう生協食堂は満席状態で節約志向がうかがえます。富裕層の子どもたちが多額の税金の受益者だからといって贅沢三昧というわけではないのです」(東大関係者)

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