パワハラ・経費不正で失脚…テレ朝「ナスD」が唯一無二の「ヒットメーカー」になれたワケ

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「必ず面白いものを撮ってくる」

 ナスDが大ブレークした理由は、彼が「半分素人、半分プロ」という立場の人間だったからだ。彼はそれまでにも「いきなり!黄金伝説。」など数々のバラエティ番組を手がけてきた。そんな友寄氏には「必ず面白いものを撮ってくる」という制作者としての使命感が備わっている。

 さらに、彼はテレビ映えする特異なキャラクターも持ちあわせていた。怖いもの知らずで何でもやってしまうのだが、単におそれを知らないド素人というわけではない。テレビマンとしての感性を持ち、番組の最終的な仕上がりや撮れ高を十分に意識した上で、面白い素材を集めてくることに専念する姿勢を持っている。そこが演者としても魅力的に見えていたのだろう。

 テレビに出ることを生業としているプロのタレントたちも友寄氏にはかなわない。なぜなら、彼らはその番組以外にも多くの仕事を抱えていて、それらに対する責任があるからだ。また、番組のロケで大きな事故が発生したり深刻なトラブルを引き起こしたりしてしまったら、それで自分のタレント生命が危険にさらされることにもなる。

 その点、テレビ朝日の社員である友寄氏にはそのような心配をする必要がなかった。自分自身がプロデューサーとして最終的な責任を取る立場にあるからこそ、どこまでも強気に出られる。しかも、タレントの代わりに番組に出ることで、本来発生するはずのタレントへの出演料を節約できるというおまけもついてくる。

 いわば、友寄氏は単なる素人ではなく、素人とプロのハイブリッド。両方のいいところを掛け合わせたような素質を持った逸材だったのだ。局のアナウンサーというのは、テレビ局の社員でありながらタレントのように出演もするという特殊な仕事であるわけだが、友寄氏もナスDとしてブレークしてからは似たような立場にいたことになる。

 テレビ朝日の上層部から見ると、友寄氏は人気番組を作るヒットメーカーでありながら、自局の人気タレントでもあったのだから、破格の待遇をするのは当然だ。ひょっとすると、少々の不祥事には目をつぶってでも、この逸材を末永く活用していきたいという意識すらあったのかもしれない。

 しかし、中居正広氏に関連するフジテレビのトラブルを契機にして、テレビ局にはより一層のコンプラ意識の徹底が求められるようになった。そんな中で、テレビ朝日としても昔気質の破天荒なテレビマンの暴走を見過ごすわけにはいかなくなっていたのだろう。

 局内での彼の立場が危ういものになっているのは間違いないが、テレビマンとしての才能は折り紙付きだ。いずれは何らかの形でコンテンツ作りに携わり、面白いものを生み出していってほしいものだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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