「都会の廃墟」が「映えるロケ地」に…超一流アーティストも利用する「東成田駅」の軌跡

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「成田新幹線」のために確保された用地

 となると、国はアクセス改善を図りたくなる。1988年、時の石原慎太郎運輸大臣が目をつけたのが、東京と成田空港を直結する「成田新幹線」のために確保されていた用地だった。

 石原氏の指示で、頓挫していた新幹線のための駅・トンネル用地を転用して、空港ターミナル直下に乗り入れる在来線新線の建設がスタート。JR東日本と京成が乗り入れることになった。そもそも、空港開業時に京成が空港直下に乗り入れられなかったのも、成田新幹線の駅用地として機能を優先したためだった。

 こうして、空港第1ターミナル直下に1991年に開業したのが、現在のJR・京成の成田空港駅だ。翌年には空港第2ビル駅も開業している。これにより東成田駅は、空港アクセスの役割を終えて現在の駅名になった。
 
 空港への優等列車も全て現・成田空港駅発着となってしまったため、普通列車がほとんどのローカル駅に。空の玄関口として栄えていた期間は13年にすぎなかった。

 こうなると、成田空港駅時代の広い空間も必要なくなる。2面4線あったホームは現在、片方の1面2線にしか電車は発着せず、かつてはスカイライナーの専用ホームだった廃ホームには「成田空港駅」の駅名表が残っている。「Drop」MVでも、この廃ホームで撮ったシーンがある。

 ホームから上がるとかつての空港利用者のための案内表示も見つけることができる。2002年にはこの駅から「日本一短い鉄道」の芝山鉄道が延伸して途中駅にもなった。

 改装もされず、そのままでは無駄な空間になりそうな東成田駅だったが、ロケ地としての新しい用途が生まれた。適度に広く、人出も多くなく、都心からもさほど離れていないという好条件から映画・ドラマ・CM・音楽MVの撮影に多く使われている。

 ゆずの楽曲「SUBWAY」MV、「NHKスペシャル未解決事件」の再現ドラマ、King Gnuの楽曲「SPECIALZ」MVなどが同駅で撮られ、コアなエンタメファンには、実はよく見る場所でもあった。昭和末期のデザインがそのまま残っている場所ゆえ、年月が経って廃墟感やレトロ感が出るようになり、今回のHANAの「Drop」にもつながった。

見学イベントやツアー列車も

 昨今は成田空港駅時代の歴史に着目して、普段は閉鎖されているエリアを見学できるイベントや、ツアー列車の運転も行われてきた。当時の有人改札口やスカイライナーの時刻表、広告など、30年以上眠っていた遺産も見ることができた。これらロケ事業やイベントは京成の収入源にもなっていて、第二の人生ならぬ“駅生”でもしっかり会社に貢献している。

 東成田駅は空港周辺の施設で働く人の足にもなっていて、今でも成田空港から徒歩で行くことができる。特に空港第2ビル駅からは東成田駅まで500メートルほどある連絡通路を歩いて行けるが、東成田駅自体が知る人ぞ知る駅になっているゆえ、この通路も人通りはほとんどない。

 照明がついているだけの無機質な空間が続いているので、ゲーム「8番出口」のような怖さもあり、サイコ映画に出てきそうな情景でもある。こんな風に写真映えするスポットにあふれている駅だ。

 もともと、京成の空港直下乗り入れを国に拒否されてできた、いわば徒花のような駅だった東成田駅。時代に取り残されたためにかえって“生きた廃墟”のようなフォトスポットになるなど、その数奇な歴史は今も続いている。

大宮高史
エンタメでは演劇・ドラマ・アイドル・映画・音楽にまつわるインタビューやコラムを執筆。そのほか、交通・建築など街ネタも専門分野。

デイリー新潮編集部

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