バンコク「中国製」高層ビル倒壊でも巻き添えに…「悲運どこまで」ミャンマー国民の絶望
中国の不況がタイのビル建設を招き、ミャンマー人が
3月28日の夜の段階では、ビルの倒壊現場では2人の死亡が確認されていた。けがは12人。約70人が倒壊したビルに取り残されていた。
翌朝、ビルの倒壊現場を訪ねた。規制線に近い歩道橋の上に報道関係者が集まっていた。場所はウイークエンドマーケットに隣接したJJモールというショッピングモールの向かいだった。近づくと、歩道に粉塵が積もっていた。
ミャンマーの震源地とバンコクとは、約1000キロも離れていた。しかし活断層の横ずれで起きた今回の地震は長周期地震動を生んだ。この振動は遠くまで伝わる性質をもっていた。そこにバンコクの地盤の緩さがシンクロし、ビルが倒壊したと専門家は解説する。そこで働いていたミャンマー人……。ひとつの地震が軍事政権の弾圧に苦しむミャンマーの人たちとつながっていく。
バンコクではいま、合法、違法を含め、数十万人のミャンマー人が働いているといわれる。政権の弾圧や徴兵を逃れて来た人も少なくない。建設現場は、立場が弱いミャンマー人を支える職場だった。
建設途中だったのは、33階、高さ137メートルの高層ビルで政府系庁舎だった。海外資本による合同プロジェクトとして、中国の「中鉄十局」という中国国営の建設会社の手で建設は進められていた。30パーセントほどまで工事は進んでいたという。同社にとっては、はじめて請け負う高層ビル建設だったと報じられている。
バンコクの日系建設会社の駐在員のSさん(55)は、現地の建設業界の現状をこう語る。
「中国系建設会社の参入は激しいですね。中国国内の不動産不況で、建設会社の受注は激減しているといいます。そこで海外に出るわけです。案件によっては、かなり安い金額で請け負うところもあるといいます。なかには技術力不足の会社もあるかもしれない。中鉄十局という会社には詳しくありませんが。ただ高層ビルは初受注だったっていうんでしょ。不安は拭えませんよね」
中国の不動産不況を受け、中国の建設会社が受注し建設を進めるタイのビルを、地震の長周期振動が襲った。そしてそこで建設作業員として働いていたミャンマー人が犠牲になった……。経済や政治の閉塞を地震が襲ったと考えるのは飛躍すぎる発想だろうか。
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