バンコク「中国製」高層ビル倒壊でも巻き添えに…「悲運どこまで」ミャンマー国民の絶望
ミャンマー中部を震源地とする地震では、タイ・バンコクにも影響を及ぼした。揺れによって倒壊したビル現場では、政情不安によって母国を離れたミャンマーからの労働者の被害も伝えられている。2つの国で災厄に見舞われる人々の悲劇を、旅行作家の下川裕治氏が取材した。
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3月28日の午後12時50分頃(日本時間午後3時20分頃)、ミャンマー中部のザガイン管区を震源にするマグニチュード7・7の地震が起きた。
そのとき、筆者はバンコクへYouTubeの撮影に訪れており、タイの屋台料理を収録していた。はじめはぼんやりしていたタイ人も、船に乗ったときのような横揺れに浮き足だち、店から表通りへ駆け出していった。タイで地震は珍しい。筆者の感覚では震度3程度の揺れなのだが、地震に慣れていないタイ人は動揺を隠せない。通りには、泣き出している女性もいた。
揺れは2分ほどつづいた。眼の前に停まっていた車が前後に数十センチ動いていた。YouTubeの撮影は現地の人に依頼したのだが、彼も表通りに避難してしまい、筆者だけ店のテーブルに残されてしまった。動揺したのか、カメラはまわったままだった。揺れが収まると、店の女性主人が戻ってきた。
「地面が揺れて酔っちゃった」
といっていたが、笑い顔はぎこちなかった。
「仲のいい友人と連絡がとれない」
オフィスに戻る途中、多くの人がビルから出て避難しているのを見た。縁石に腰をおろし、盛んに安否確認の電話をかけていたが、LINEはつながらないようだった。大通りからは救急車の音が聞こえてくる。電車も停まっているという。バンコクは混乱していた。大渋滞も起きているようだった。午後の約束が次々にキャンセルになっていった。
筆者のオフィスが入るビルは日系企業が多い。そこで働く日本人も外へ避難していたが、表情は落ち着いている。地震に慣れた日本人とタイ人との温度差が浮き彫りになっていた。
「こんなに長くつづいた地震ははじめてだ」
と、避難したタイ人が興奮気味に話しかけてくる。動揺するのも無理はなかった。
そこに飛び込んできたのが、バンコクのビル倒壊の一報だった。日本人も多く訪ねるウイークエンドマーケットの向かいで、高層ビルとして建設が進んでいた建物が一気に崩れ落ちた。この情報がタイ人の不安を煽った。
その日の夕方、バンコクの食堂で働く知り合いのミャンマー人Lさん(42)から電話が入った。
「仲のいい友人と連絡がとれないんです。彼は建設現場で働いていたんです。ひょっとしたら、崩れたビルで働いていたのかもしれない。なにか情報ありますか」
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