尾崎亜美のアルバム曲「純情」が令和に海外で人気沸騰、昭和のヒット作で味わった“生みの苦しみ”や入院先での“身バレ”も懐古
「純情」が海外で大ヒット、シティ・ポップ・ブームが火付け役に
Spotify第2位は、近年、世界的に人気が急上昇している「純情」(’81年)。ダンスしながら飛び出してくるかのような躍動感あるイントロや、尾崎のコケティッシュな歌唱が魅力的な、明るいシティ・ポップだ。本作は、海外リスナーが全体の9割、特にアメリカでのシェアが約5割で、日本の6倍もの再生数を誇る。他にも、イギリス、インドネシア、カナダ、フィリピン、メキシコと、世界的にリスナーが広がっている。これは、‘20年12月に松原みき「真夜中のドア~stay with me」(’79年)が大ヒットしたことで、『Japanese City Pop』に関連するプレイリストが世界各国で作られ、その多くに「純情」が選曲されたこともあり、’21年2月から3月にかけては、リスナー数が急増したというわけだ。
「松原みきさんと同じレコード会社で、発売時期も近かったから選曲されたんでしょうかね。あとは、(「純情」のプロデューサーである)デヴィッド・フォスターや、参加ミュージシャンがほとんどアメリカ人というのも関係しているのかな?」
ただ、’80年代前半のデヴィッド・フォスター参加曲がすべてバズっているわけではないので、やはり尾崎の「純情」だからこそ人気が出たのだろう。それにしても、この曲は、40周年でリリースされた尾崎自選の3枚組オールタイムベストにてようやくセレクトされたものの、それまでの1~2枚組ベスト盤には収録されていない。いわば、“通向け”の楽曲だったと言える。
「でも、リリース当時からライブで歌っていましたよ。新曲が出るたび、前の作品はどうしてもセットリストから外していきますが、その中ではかなり歌ってきたほうですね。でも、偉そうに聞こえたら申し訳ないですが、私のソロ・コンサートって特に最近、満員になることが多いんです。実はそのなかに、サブスク経由でファンになってくださった方もいらっしゃるのかもしれませんね。今度、お客さんの拍手でアンケートを取ってみようかしら? “はい、アメリカの人!”、“インドネシアの人!”なんて(笑)」
ちなみに、同じくシティ・ポップ・ブームで大きな盛り上がりを見せている杏里は、近年のライブで、海外での人気曲をセットリストに組み込んだ。すると、それを聞きつけたであろう海外の若いリスナーが会場内で見られるようになったという。
しかしながら、評判の高い「純情」が収録されたアルバム『Air Kiss』は当時のオリコンでは最高53位どまりだ。そのころ常にオリコン週間20位前後のヒットを飛ばしていたなかで、この作品で極端にセールスが伸び悩んだのは、どうしてなのだろう。
「ひとつ前のアルバム『HOT BABY』は、みなさんから絶賛されたのですが、『Air Kiss』も同じデヴィッド・フォスターのプロデュースだと発表したら、他の人の編曲が2作続くことに苦言を呈する人も結構いたんですよ。次の『Shot』で、またセルフ・プロデュースに戻したら、もとのように売れたんです。不思議ですよね。
『Air Kiss』はとても素晴らしいアルバムだと思っています。デヴィッドは、アメリカで『HOT BABY』を作っていた時から大満足で、“次も一緒にやりたい、次は日本で作りたい”って言ってくれて。彼が世界的に優秀なエンジニアも連れてきてくれたので、レコーディングをした一口坂スタジオに、当時はあまりスタジオで見かけなかったヤマハのプロ仕様のスピーカー(NS-10)を調達しました。そうしたら、一気にNS-10ブームが来て、どこのスタジオもそのスピーカーに変わったんです。だから、『Air Kiss』を日本で作ったというのは、私のみならず音楽業界全体に多大な影響を及ぼしているんですよ」
当時からの尾崎のマネージャーによると、デヴィッド・フォスターは、「亜美は自分と組んだらアメリカでもヒットを出せる」と自信満々だったらしい。40年の時を経て、彼の予言通りに尾崎の楽曲が世界的に注目されているとは、実に感慨深い。
次ページ:知る人ぞ知る曲「New Precious World」の意外な人気に本人も歓喜
[2/3ページ]