八百長と揶揄され、「プロレスなんて」という偏見をひっくり返そうとした「猪木イズム」

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人に勇気を与える存在

 新日本プロレスを旗揚げする時、「真のプロレスを見せるんだ」と語ったプロレスラーのアントニオ猪木。「元気ですかー!」「1、2、3、ダー!」と雄叫びをあげ、実際にビンタをして、ファンに闘魂を注入し続けた。『兄 私だけが知るアントニオ猪木』(講談社)を上梓した弟・猪木啓介氏(77)が、“猪木イズム”を語る。(全6回の第6回)

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――改めて“猪木イズム”とは何だったかを教えてください。

 やっぱりアントニオ猪木っていうのは、人に勇気を与えるという存在ですよね。プロレスにおいても、猪木の試合は今の試合とはちょっと違う。我々が知っている猪木の試合というのは、試合を通じて己の生きざまを見せる、そんな世界観がありました。今のプロレスは、技術こそもっと高度になっているのかもしれませんが、観客を魅了する「何か」が不足しているようにも思います。

――猪木さんのプロレスのスタイルはどのようなものでしたか。

 例えば、リング上では何が起きても対応できるよう、実力主義を提唱し、それを徹底していました。かつてはブラジルからイワン・ゴメスという選手を呼び寄せ、彼は日本でまだ知られていなかった「ヒール・ホールド」という足関節を極める必殺技を新日本の選手たちに教えていました。

 ゴメスはブラジル発祥の格闘技「バーリトゥード」(ポルトガル語で、何でもあり)の猛者でしたから、格闘技術の習得、トレーニングを重んじた新日本のカラーにマッチしていたと思います。観客には見えない部分も多いですが、実際にはものすごく細かい技術が詰まっていたと思います。

――ファンとの距離の取り方はどのようなものでしたか。

 新日本プロレスの初期には、お客さんに練習を全部見せていました。試合が始まる1時間前からお客さんを入れて、練習を見せていたんです。その後、一度外に出てもらってから再入場する形でした。だから、学生さんとかとヒンズースクワットを一緒にやったりする時もありました。プロレスラーの練習がどれだけ厳しいものかを、お客さんにも見てもらうという意図があったんです。

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