V3「大の里」の勝因と課題 「横綱昇進は十分にあり得る。望まれる勝ち星の数は…」【音羽山親方の春場所総括】
2021年3月場所で現役を引退し、2年後の12月に音羽山部屋を創設した71代横綱・鶴竜こと音羽山親方。春場所前には2人の新弟子が入門して、部屋は活気づいている。親方も今場所から審判部に異動し、勝負審判として土俵下で厳しい目を光らせていることになった。そんな親方に、春場所の土俵を改めて振り返ってもらった。【ノンフィクションライター/武田葉月】
横綱昇進は十分にあり得る
――春場所は、元大関で平幕の高安関(「高」ははしごだか)が、絶好調! 前半戦から、優勝戦線を引っ張り、千秋楽は最大5人で優勝決定戦になろうかという混戦でした。決定戦は、3敗の大関・大の里関と高安関の一騎打ちになり、「大関の意地」を見せた大の里関が、3回目の優勝を決めましたね。
音羽山:本当に最後まで盛り上がった場所だったと思います。
大の里は昨年の秋場所に大関に昇進した後、成績が伸び悩んでいましたけれど、今場所は彼本来の「前に攻める相撲」が取れていたのが、優勝の要因です。あれだけの体(192センチ、183キロ)もありますし、前に出た時の圧力を止められる力士はいないんじゃないでしょうか?
ただ、相手を押し切れなかった時や、受けに回った時に引くクセがあるところが課題です。今場所敗れた3番(4日目・若元春戦、10日目・高安戦、13日目・王鵬戦)は、まさに引きに乗じて、相手に攻め込まれている。高安や王鵬は体が大きく、簡単に下がらないので、引いてしまうんですよ。
――今場所優勝したことで、大の里関は5月の夏場所で初の綱取りに臨むことになるわけですが……。
音羽山:前に出る相撲を取れれば、横綱昇進は十分にあり得ると思います。横綱を決めるとしたら、13勝以上の勝ち星を上げての優勝が望まれるでしょう。
一度は優勝させてあげたい力士・高安
――優勝決定戦に進出したものの、またしても優勝を逃してしまった高安関に関してはいかがでしょうか?
音羽山:高安はもう35歳でしょう。それでもここまでがんばったことは評価したいですね。2022年、高安は優勝決定戦に2度出たのですが(春場所、九州場所)、いずれも賜杯に届かなかった。それ以外にもチャンスは何度もあったんです。
前半戦は好調で、周囲は優勝を期待するのですが、中盤以降優勝争いに絡んでくると、意識しすぎてしまうのか、伸び伸びとした相撲が取れなくなってしまうんですよね。だから私は以前、高安に対して、「思い切って何かを変えてみてはどうか?」と、四股名を変えることを提案してみたほどです。
徹底した体作りをした今場所は、後半戦になっても息切れすることがなかった。決定戦では、高安の初優勝を望む声が多かったように、一度は優勝させてあげたい力士の1人ではあります。
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