「バンちゃん、本当にありがとう!」 プロ野球選手から“視聴率男”になった「板東英二」に「長嶋茂雄」が送った“意外な”感謝の言葉

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数多のエピソードの持ち主

 俳優、歌手、タレント、芸人……第一線で活躍する有名人たちの“心の支え”になっている言葉、運命を変えた人との出会いは何か――。コラムニストの峯田淳さんは、日刊ゲンダイ編集委員として数多くのインタビュー記事を執筆・担当し、現在も同紙で記事を手がけています。そんな峯田さんが綴る「人生を変えた『あの人』のひと言」。第9回は元プロ野球選手から俳優、タレント、司会者と多彩な変身を遂げた板東英二さん(84)です。

 板東英二が所得隠し騒動に巻き込まれたのは、2012年暮れのことだった。

 映画やテレビ出演のために植毛していた費用などが経費として税務当局に認められず、マスコミはこぞって、「悪質」と書き立てた。報道される前に修正申告はすんでいたが、板東は一時、謹慎することになった。

 当時も今もそうだが、強力なメディアスクラムが組まれ、一方的に報道される時、筆者はその事案を疑ってかかることにしている。この時もそんな臭いを感じたので、板東が当時所属していた吉本興業の関係者から取材の話があった時は、真相を探るべく、二つ返事でお願いした。

 もちろん騒動の話は聞いたが、それよりも興味深かったのは、板東の経歴やエピソードの数々だった。

 満州から引き揚げてきた過酷な生い立ち、プロ野球選手時代の交遊……。俳優業では、先ごろ亡くなったいしだあゆみも出ていた「金妻(金曜日の妻たちへ)シリーズ」や、高倉健の映画など人気作品に出演。また、タレントとしては「マジカル頭脳パワー!!」や「日立世界ふしぎ発見!」といった高視聴率番組での活躍など、その仕事の幅広さは比類ない。

 連載後に改めて取材を行い、それが本になった。板東英二著、タイトルは『板東英二の生前葬 最期のありがとう』(双葉社、2015年3月刊)。

 登場するのは、野球界では長嶋茂雄(89)、王貞治(84)、星野仙一らスター選手。俳優は高倉健ほか多数、タレントは島田紳助(69)、明石家さんま(69)、笑福亭鶴瓶(73)と、まさに一流どころがズラリと並んだ。ちなみに1998~99年に、板東は自伝本『赤い手 運命の岐路』(2部構成)を上梓しているが、カバーにある「赤い手」の赤い題字は高倉の手によるものだ。

 そんな幅広い交友関係の中で、野球界ではやはり大スター、ミスターこと長嶋茂雄読売ジャイアンツ終身名誉監督との話が板東らしい。

「サウナってどうして熱いんだい?」

 板東は県立徳島商業高校時代の1958年、夏の甲子園大会で83個という最多大会奪三振を記録し、同年秋に鳴り物入りで中日ドラゴンズに入団した。そんな彼が、球界を代表する大スターから受けた最初の“洗礼”は、プロ入り2年目、オールスターに選ばれた時だった。

 食事前に宿舎の大浴場で汗を流すことになった。板東が入って10分後くらいにミスターが入ってきた。板東は「お先に失礼します」といえず、浴槽でジッとしていた。そのうちに目まいが。20分くらい熱い湯に浸かっていたからのぼせる寸前だった。

 それまで、ミスターとの対戦は何度もあったが、あの大スターが新米の自分の顔と名前を覚えているとも思えなかったが、なんと「おう、英二」と名前で呼ばれたそうだ。続けて言ったミスターのひと言。

「サウナってどうして熱いんだい?」

 ガクッ――熱いのがサウナではないか。この出来事を板東は「凡人には理解できない人だと思いました」と語った。

 野球解説の取材で甲子園球場に行った時のこと。ミスターがグラウンドに現れてバッティングケージに近づき、「よっ! バンちゃん、元気?」、さらに「デブちゃん、来てるね」と、これも取材で来ていたタレントの松村邦洋(57)に「こっち(へいらっしゃい)」と手招きしたという。

 IDカードを持っていない松村は、そのエリアに入ることはできないのだが、それでもミスターが手招きするので、松村は板東の隣にやって来た。そして監督はこう言った。

「いやー! たけし君、最近、調子はどう?」

 気をきかせた松村は首をひねり、「調子? まずまずだなぁ!?」と肩をすくめた。ミスターはビートたけしの物まねをする松村に大喜びだったという。

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