万病のもとになる「背骨の不調」の改善法 「背骨は最も老化しやすい」「猫背の人は“お相撲さん”の歩き方を」

ドクター新潮 ライフ

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背骨が最も老化しやすい原因

 背骨と背骨の間には関節や、衝撃を吸収するクッションの役割を果たす椎間板があるわけですが、加齢によって椎間板のクッション性が低下することが背骨の変形をもたらします。

 椎間板の約8割は水分が占めていて、その水分の出し入れによって栄養を補給し、あるいは老廃物を排出して椎間板は良好な状態を保っています。この出し入れに不調が生じ、水分含有量が減るとクッション性が損なわれるわけです。

 椎間板の中には血管が通っていないため、血液による栄養補給・老廃物排出はかないません。では、椎間板はどのように水分の出し入れをしているのでしょうか。それは運動による衝撃です。この衝撃によって圧迫と弛緩、すなわち適度な荷重と非荷重が繰り返されて水分が出たり入ったりし、椎間板は適切な水分含有量を保てるのです。

 背骨の健康を維持する上で欠かせない、椎間板の状態を良好に保つための適度な荷重と非荷重。現実問題、これがなかなか難しいのです。例えば、肘であれば可動域ギリギリまで曲げ、伸ばすといった動作は、日常生活の中で何気なく行われていると思います。膝に関しても、1日1回もしゃがまないということは少ないでしょう。

 翻って背骨はどうでしょうか。可動域いっぱい、すなわち思い切り前屈し、ギリギリまで反らすという動作は、意識的にやらないと、普段の生活の中でほとんど行わないのではないでしょうか。つまり普通に生活しているだけでは、背骨における適度な荷重と非荷重の状態を作り出すことは難しいのです。そのため、椎間板の水分含有量が十分でなくなり、クッション性が失われて背骨が変形していく。背骨が最も老化しやすい原因を、私はこう分析しています。

ペンギン×、ヤクザ◯

 こうして背骨が老化し、S字が消えて猫背になると、歩き方から変わってしまいます。背骨がしなやかに動かないため、バタバタと、ぎこちない歩き方になってしまうのです。右足を踏み出したら重心がそのまま右に傾き、左足を踏み出したら重心も左に傾く、ペンギンのような歩き方です。この歩き方だと、魚の動き方のところで説明した「背骨→ヒレ(手足)」という力の流れ、連動性がないため、非常にエネルギーのロスが多くなり、また体のどこかに負担がかかってしまいます。

 高齢の方に多く見られるこのような歩き方になっている場合は、普段の歩き方から見つめ直してみることをお勧めします。その際に参考にすべきは「お相撲さん歩き」です。

 お腹が突き出たお相撲さんは、バランスを保つために自然と猫背ではなく、背筋が伸びた状態になります。そして、大きな体を動かすために腕をブラブラと大きく振る。この歩き方は、体の各部位が見事に連動した、理学療法士から見ると極めて理にかなったものです。お相撲さん歩きでイメージしにくい方は、任侠映画に出てくるヤクザや、ドラマに出てくる昔ながらの不良が“偉そう”に歩いている姿を思い浮かべてみてください。あれが、背骨の柔軟性を有効に使えている「正しい歩き方」なのです。

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