万病のもとになる「背骨の不調」の改善法 「背骨は最も老化しやすい」「猫背の人は“お相撲さん”の歩き方を」

ドクター新潮 ライフ

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手足はヒレのような存在に過ぎない

 人間の起源は魚です。魚に手足はなく、背骨で生み出した力をヒレに伝えて泳いでいます。そして、魚類の歴史を24時間とした場合、人類の歴史はわずか14分24秒に過ぎません。つまり、背骨を使って動いていた歴史が圧倒的に長く、いまでも人間にとって手足はヒレのような存在に過ぎないともいえるのです。そのため、体の「末端」である手足などの不調の原因も、人間が動く際の基本となる「中枢」の背骨の不具合に由来している場合が少なくありません。ゆえに、「体全体」の骨や関節の健康を守るには、「背骨」の健康を維持・促進することが大事になってくるのです。

 加齢とともに背骨の変形が進んで日常生活に支障を来す成人脊柱変形の有病率は、60歳以降で6割以上に上るとの報告があります。また、米国のカリフォルニアで行われた、45~95歳の1883名を対象にした大規模研究では、猫背の人の転倒リスクは1.38倍、猫背の度合いが強くなると1.48倍になるという結果が報告されています。そして転倒は要支援・要介護の大きな元凶のひ一つです。これらの数字は、やはり背骨こそが健康寿命延伸の鍵であることを物語っています。

最も老化しやすい

 それでは、「背骨の健康」とは具体的に何を指すのでしょうか。

 背骨は真っすぐではありません。前後に「S字」のように湾曲することで柔軟性を保ち、さまざまな動きをしやすい構造になっています。魚を思い浮かべていただければ、背骨の柔軟性、しなやかさ(医学的には「カップリングモーション」)が、勢いある泳ぎを生み出していることが分かると思います。猫背の方はこのS字が、しなやかさを失い「C字」になってしまっているのです。

 また、前後のS字はよく知られているかもしれませんが、実は背骨には左右にも「S字」があり、私はこれを「隠れS字」と呼んでいます。直立している時は湾曲していませんが、例えば歩く際に一歩ずつ踏み込み上体が傾いた時、左右にもS字状に湾曲することで、私たちは健全なバランスを保つことができているのです。

 したがって、背骨の健康の基本とは、この「二つのS字」を保ち、柔軟でしなやかな状態をキープすることなのです。加えて、S字を維持するのに欠かせない背骨を支える筋肉を鍛えることが大事です。しかし困ったことに、背骨は体の構造体の中でも最も老化しやすい、つまり衰えやすい骨なのです。

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