「私を父親と思えばいい」…元付き人・小松政夫さんが見た大スター「植木等さん」の“無責任男”ではない素顔
一度だけ叱られた納得の理由
ご飯もね、店に入ると、「えーっと、天丼と親子丼にかけそば。お前は?」「ハイ、かけそばいただきます」で、かけそば2つに天丼と親子丼が出てくる。その上で、その天丼と親子丼を、「ほら、お前、どっち食うんだ?」と私に食べさせてくれる。
落語でよくありますが、そば屋で師匠が自分は天丼、弟子にかけそばをとる。で、どうだ、天丼食いてぇか、食いてぇなら早く偉くなれって言う噺があります。でも、オヤジは違いましたね。若造の付き人にこんな気遣いしてくれる師匠、他にいやしませんよ。だから、この人に1日1回褒められるために何をしようかって、もう毎日、そればっかり考えてました。
一度だけ、叱られたことがあります。当時、東宝ニューフェイスでデビューしたある人気俳優と私が意気投合して、よく飲んでまして。ある時、撮影所で彼とすれ違って、昨日もかなり飲んだなあ、お前も強いなあ、なんて言い合ってた。
そしたらオヤジ、「彼は東宝のスターで、お前はまだ修業中の身だ。それを“お前”という言い方は何だ!」って。とにかく、モラルとか人との付き合い方とかには厳しかった。忘れられない一言ですね。ま、そんな時でも決して怒鳴ったりはしなかったですけど。
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温和で時に厳しく、モラルを重んじる常識人――。第2回【独立が決まり号泣する「小松政夫さん」に師匠「植木等さん」がかけた“粋なひと言”とは… “昭和の無責任男”秘話】では、小松さんを独立させた突然の展開や、無責任男のイメージに悩んでいた「オヤジ」の姿が語られている。