「株主総会で糾弾の対象になるのは嫌」フジ・日枝氏退任の真相 新体制は「日枝色」払拭が鮮明

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日枝色の払拭

 FMHとフジは経営体制を大きく見直す。また、日枝色を排除しようとしている姿勢が鮮明に表れている。

 まず取締役数が大幅に減る。FMHが17人から11人になり、フジは22人が10人になる。

 さらにFMHもフジも女性取締役の比率を全体の3割以上とする。これまで女性取締役はFMHが17人中2人、フジは22人中2人しかいなかった。

 取締役の平均年齢も下げる。FMHが71.2歳から61.6歳へ。フジが67.3歳から59.5歳になる。

 若返りは遅すぎたくらい。流行や情報に敏感であるべきコンテンツ産業において、経営陣の平均年齢が60代後半から70代というのは厳しかった。

 出向先のTVerで社長の若生伸子氏(63)がFMHで常務、フジで取締役になる。動画部門の強化を目論んでのことだろう。ドラマが好調で、その動画の再生回数も伸びているTBSの龍宝正峰社長(60)も元TVer社長だ。

 FMHとフジではほかに経営企画室畑の安田美智代氏(55)らが新たに取締役に就く。安田氏はフジの第1期黄金期中だった1992年に入社した。一方で、1991年入社で両社の取締役だった柾谷美奈氏(55)は退任する。

 柾谷氏は報道局パリ支局長、国際局長を歴任。プロパーでは唯一の女性取締役だった。日枝体制のスター的存在で、番組が国際コンテストで賞を受賞したときには着物姿で記念の盾を受け取っていた。だが、日枝氏から高い評価を受けていたことがサラリーマン生活の命運を分けたようだ。

 FMHとフジの取締役だった熊坂隆光氏・産経新聞相談役(76)も退任する。

「日枝氏の産経での懐刀で、フジに連れてきた人だから、順当な人事」(フジ関係者)。

 やはり日枝氏が総務省から招いた天下りの吉田真貴子氏(64)もFMHとフジの取締役を退任する。

 日枝氏が最も評価する番組とされるBSフジ「フジLIVE プライムニュース」の反町理キャスター(60)もフジの取締役を退く。

 日枝氏の盟友・尾上規喜(90)も取締役(常勤監査等委員)を退任する。フジでは日枝氏より先輩で社歴は65年以上。2人は「HOコンビ」と呼ばれ、社内情報に精通し、ときに社員たちを震え上がらせていた。

 金光氏はFMHで代表権のある社長だったが、代表権のない会長になる。フジで代表権のある社長の清水氏はFMHでも代表取締役社長になる。1986年からの「ドラゴンボール」シリーズを手掛け、アニメに強い清水氏が、今後のFMHとフジを背負う。

 一方で不安は残されている。2月は昨年と比べてCMが9割減った。4月以降も様子見をする構えのスポンサーが多い。31日に公表される第3者委員会でフジの人権侵害が深刻だと分かった場合、トヨタや日本生命など社是で人権重視を掲げている企業はCM出稿を見送り続ける可能性がある。

 組織としての懸念点もある。脱・日枝体制がうまくいくのかどうかだ。業績面を見ても日枝体制が岐路に立たされていたのは疑いようがないが、それでもFMHとフジは全員が日枝氏に従ってきた。OB会(旧友会)すら日枝派が仕切ってきた。逆方向への舵を簡単に切れるのだろうか。

 FMHの取締役にはほかにも難題がある。一連の問題でフジのCMが激減し、FMHに損害を与えたとして、株主の男性(55)が金光氏ら現旧経営陣15人に対し233億円の賠償を求める株主代表訴訟を起こした。

 会社が巨額損失を隠し、損害が出たオリンパスの株主代表訴訟では旧経営陣らに594億円の賠償が命じられた。最高裁で確定している(2020年)。

 福島第1原発の事故防止措置を怠ったとして株主代表訴訟を起こされた東京電力の取締役たちは1審で総額13兆3210億円の損害賠償の支払いを2022年に命じられた。現在は2審の審理が進められている。

 フジの訴訟の行方は不透明だが、仮に同社が敗訴した場合、15人で233億円を負担することになる。

 先例を見ると、現実離れした話ではない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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