尾崎亜美が昭和アイドルのなかでも岡田有希子と河合奈保子を大絶賛する“納得の理由” 松本伊代の「可愛すぎる」突撃エピソードも明かす

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松本伊代の“突撃訪問”に河合奈保子の優等生ぶり……人気アイドルとの思い出

 まだまだヒットは尽きないが、順に尋ねていこう。Spotify第10位に入った松本伊代への提供作「時に愛は」は、しっとりとしたバラードで、彼女の歌の世界を大きく広げている。そういえば、以前、松本にインタビューした際、「私が雪の夜道を歩いてきたエピソードを、亜美さんが何回もお話されているんです」と笑っていた。

「だって、人気のアイドルが、マネージャーもつけずに作家の家にピンポーンって来ちゃったんですよ(笑)。それで、“どうしたの?”って尋ねたら、“どうやったら歌がうまくなれますか”って言うから、もう可愛くて、可愛くて。健気ですよね」

 松本は、自分から「バラードを歌いたい」と言った手前、相当なプレッシャーがあったという。

「ご本人としては、明るくキャピキャピした歌もいいんだけれど、違うものも歌いたいという強い想いがあったと聞きました。それで、イメージチェンジするように『時に愛は』を作ったんですね。家に来てくれた日、腹式呼吸だけはひと通り教えましたが、彼女には“周りからどういう風に見られるかとかは全く考えずに、伊代ちゃんらしく歌っていいんだよ”って伝えました」

 そして、尾崎が作品を提供したアイドルの中でも“本当に歌が上手い”と絶賛しているのが河合奈保子だ。Spotifyのランキングでは、ミディアム調のシングル「微風(そよかぜ)のメロディー」が第26位、そのカップリング曲でアップテンポの「プリズム・ムーン」が第34位にそれぞれランクイン。依頼を受けて書いた2曲のうち、どちらをA面にするかはお任せだったという。

「歌手の方をディレクションする際、10のことをお願いして5ができたら、もうすごいじゃないですか。それが奈保子ちゃんの場合は、3くらい言うだけで10できちゃうんですよ。私がこの曲に何を求めているのかを瞬時に理解し、むしろ私が思っている以上の結果を出してくれるんです。だから私、セルフカバーで『微風のメロディー』を歌うとき、最初はかなり戸惑っていました(笑)。

 奈保子ちゃんは歌詞とメロディー両方を理解する力があって、そのメロディーが何のためにこの位置にあるのかまで考える能力にも長けていると感じましたね。私は、詞とメロディーのステディな関係をとても大事にしているのですが、それも見抜いてくれて。楽曲を提供する歌い手には、事前に私が歌ったテープを渡して聴きながら覚えてもらうのですが、(あまりの忙しさから)変な風に覚えてしまっている人もいて、直してあげるか、時には“もうそれでいいや(笑)”って進めてしまう場合もあります。でも、奈保子ちゃんは楽譜が読めてピアノも弾けるので、こちらが困ることは一切なかったですね」

 尾崎亜美といえば、松田聖子への楽曲提供のイメージが強いが、’80年代アイドルの二大巨頭であった中森明菜にも、アルバム『ANNIVERSARY』(’84年)で2曲を提供している。カラオケ向けに声を張り上げて歌えそうな“動”の歌謡ロックチューン「Easy」(Spotify第21位)と、しっとりと切ない女心をしたためる“静”のバラード「バレリーナ」(同23位)だが、どちらを聴いても明菜を強く意識した提供作だと気づかされる。特に「Easy」は、サビ前の ♪いらないわ、いらないわ、いらないわー、の部分など、明菜らしいパンチの利いた歌い方が映える作品だ。

「偉そうな言い方かもしれませんが、あらためて『Easy』を聴くと、シングルになっても大丈夫そうな楽曲ですよね。私の中に、理想の中森明菜ちゃん像があって、アップテンポとバラード、両方書かせていただきたいなって思っていたら、2パターンでオファーをいただいたんです」

 他にも、’70年代にハイ・ファイ・セットや桜田淳子、’80年代に薬師丸ひろ子、新田恵利、’90年代に観月ありさ、そして2010年代に平原綾香、中島愛など、提供作の幅広さに驚かされる。テレビやラジオの特集では、楽曲提供の多い女性シンガーソングライターとして、中島みゆき、松任谷由実、竹内まりやの3人が紹介されることが多いが、尾崎の実績も、昭和から平成ポップスを語るうえで非常に重要だということが分かる。また、昨今、サブスクによって世界中の音楽が手軽に楽しめるようになったことで、軽やかながら緻密に構成された彼女の楽曲評価がより高まっている。ゆえに今後、さらなるヒットが発掘されるのでは、と期待せずにはいられない。

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 記事第1回では「オリビアを聴きながら」をはじめとする人気上位の提供曲について語って話を伺った。

【INFORMATION】

◎2枚組アルバムコンピレーションCD『TWIN-SONGs~尾崎亜美作品集』 2025/3/26発売!
 ディスク1には1970年代後半から’90年代初頭までに尾崎亜美が15人の女性シンガーに提供した楽曲のオリジナル音源を収録。ディスク2には尾崎亜美自身によるカバーを、ディスク1と同じ曲目、曲順で収録。

Disc 1収録曲/歌唱
1. オリビアを聴きながら/杏里
2. 天使のウィンク/松田聖子
3. あなたの空を翔びたい/高橋真梨子
4. Summer Beach/岡田有希子
5. 時に愛は/松本伊代
6. 化粧なんて似合わない/岩崎良美
7. パステル ラヴ/金井夕子
8. 微風(そよかぜ)のメロディー/河合奈保子
9. 伝説の少女/観月ありさ
10. 届かなかった AIRMAIL/真璃子
11. LADY/桜田淳子
12. Happy Birthday/横山知枝
13. 風を見つめて/榊原郁恵
14. 雨は止まない/薬師丸ひろ子
15. 春の予感‐I've been mellow‐/南沙織

Disc 2
1~15の楽曲を同じ曲順で尾崎亜美がセルフカバー

◎2025年4月、『尾崎亜美 CONCERT 2025』開催!

【メンバー】
尾崎亜美(Vo,Key)/小原礼(Ba)/是永巧一(Gt)

【会場】
・2025/4/4(金)@ビルボードライブ横浜
・2025/4/7(月)@ビルボードライブ大阪
・2025/4/25(金)@ビルボードライブ東京

1st ステージ 開場 16:30 / 開演 17:30
2nd ステージ 開場 19:30 / 開演 20:30

【尾崎亜美 プロフィール】
1957年、京都市生まれ。’76年、シングル「冥想」でデビューし、翌年には「マイ・ピュア・レディ」が初のオリコンTOP10入り。デビュー3年目よりアーティストへの楽曲提供を行い、南沙織「春の予感~I've been mellow~」、杏里「オリビアを聴きながら」、高橋真梨子「あなたの空を翔びたい」、松田聖子「天使のウィンク」、観月ありさ「伝説の少女」などが人気に。近年も精力的にライブを行っている。

臼井孝(うすい・たかし)
人と音楽をつなげたい音楽マーケッター。1968年、京都市生まれ。京都大学大学院理学研究科卒業。総合化学会社、音楽系の広告代理店を経て、'05年に『T2U音楽研究所』を設立し独立。以来、音楽市場やヒットチャートの分析執筆や、プレイリスト「おとラボ」など配信サイトでの選曲、CDの企画や解説を手がける。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)、ラジオ番組『渋谷いきいき倶楽部』(渋谷のラジオ)に出演中。データに愛と情熱を注いで音楽を届けるのがライフワーク。

デイリー新潮編集部

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