杏里「オリビアを聴きながら」や松田聖子の名曲たちを生んだ尾崎亜美が語る制作秘話「『天使のウィンク』は明日までに作詞・作曲をお願いと言われ……」

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松田聖子「天使のウィンク」、与えられた制作期間はわずか1日だった

 次に、Spotify第2位と第4位を見ると、松田聖子の「天使のウィンク」と「ボーイの季節」がランクイン。この2作はレコードもオリコン1位を獲得し、累計売上も35万枚以上と、当時も今も人気となっている。「天使のウィンク」は、「‘84年末の大掃除の頃に依頼を受けた」と尾崎自身がよく語っているが、リリースされたのは翌年の1月30日だ。依頼から発売までに約1か月しかなく、そうとうな強行スケジュールで進められていたことが分かる。

「年末だったので、音楽室も含めて家じゅうを大掃除していたところ、当時CBSソニーにいらした若松宗雄さんから連絡があり、“亜美ちゃん、曲を書いてもらえない?”と言われました。その前に聖子ちゃんには、『いそしぎの島』というアルバム用の曲を提供していたので(アルバム『Tinker Bell』収録)、この依頼も喜んでお受けしたんです。それで“〆切はいつですか?”って尋ねたら、“明日”って。“すごいことをおっしゃるなぁ。でも、聖子さんならきっと曲のイメージが浮かぶから大丈夫かしら”と思い、“歌詞は別の方ですよね?”って聞いたら、“いやいや、亜美ちゃんで”と(笑)。

 でも、一度“やります”と言ってしまった手前、書かなきゃならなくて。そうしたら大掃除中に、天井に舞っていたホコリが天上と地上を結ぶスポットライトに見えて、天使が恋に悩む女の子を見おろしている、という話を思いつき、結局1日で書きあげました。“天使”と“私”の2人が主人公となっている歌詞は珍しかったかもしれません。『オリビア~』もそうですが、私って、誰かがやったことのない領域に挑戦したがる性格なんですよ」

 たった1日で、あれほど完成度の高いストーリーが思いつくとは、彼女のソングライティング力の高さに改めて驚かされる。「天使のウィンク」は、尾崎自身も同年のアルバム『10番目のミュー』でセルフカバーしているが、曲が進むにつれて演奏やボーカルがパワフルになっていき、聖子版とはかなり異なっているのが興味深い。ちなみに、『10番目のミュー』には超常現象のような楽曲が多く、尾崎いわく“もののけアルバム”と呼ばれているとのこと。

「聖子さん版は、天才的なアレンジャーの大村雅朗さんがポップにしてくださって、私もコーラスで参加しましたが、自分で歌う際にはデモテープに近い感じに仕上げました。聖子さんと勝負するとか対抗するという気は毛頭なくて、可愛らしさをなぞるよりは、“これはロックっぽいイメージでいこう”と思ったんです」

 Spotify第4位の「ボーイの季節」は、聖子の結婚および活動休止前ラストとなるシングルだ。このタイトルは、聖子のデビュー曲「裸足の季節」を意識して付けたのだろうか。

「潜在意識があったかは定かではありませんが、意図して書いたわけではありません。当時、聖子さんが結婚して活動休止されるという発表があったので、“この曲はテレビなどであまり歌われないな”と思ったんですよ。だから、聴いているだけで映像が浮かびやすい歌詞にしたんです。この歌入れの時、聖子さんに歌詞の意味を尋ねられたので自分なりに答えたら、すごくエモーショナルな感じに歌いあげてくださって。でも、涙ぐむと鼻声になってしまうから、泣かないようになだめて、“ここはぐっと気持ちを入れるけど、ここは少しクールな感じで、という具合にドラマを作って歌っていこうか”と言ったのを覚えています」

 確かに、聖子の歌唱を振り返ると、いつも以上に緩急がついているのが味わい深い。尾崎はこの作品を、どういった意図で制作したのだろうか。

「“この曲は意味がよく分からない”といろんな方に言われましたが(笑)、あなたと一緒に“地図”を持って、ともに人生の旅を歩みたい、という想いを込めて作ったような気がします。この曲の歌詞には、“あなたの記憶が唯一の地図”という部分があり、女性が男性を追いかけるという風にとらえる人もいますよね。自分としては“当時の気持をすぐ思い出せる”という意味で作ったので、追いかけるというより、“二人で旅立つ”というイメージでした。でも、みなさんの心の中で自由に絵を描いてもらえれば、とも考えて、余白を残したんです」

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