杏里「オリビアを聴きながら」や松田聖子の名曲たちを生んだ尾崎亜美が語る制作秘話「『天使のウィンク』は明日までに作詞・作曲をお願いと言われ……」

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 この連載では、昭和から平成にかけて、数多くの名曲を生み出してきたアーティストや関係者にインタビューを敢行。令和の今、Spotifyなどの音楽ストリーミングサービス(サブスク)で注目されている人気曲をランキング化し、各曲にまつわるエピソードを深掘りすることで、より幅広いリスナーにアーティストの魅力を伝えていく。

 今回は、2025年3月でデビュー50年目に突入した尾崎亜美。近年、サブスクにおける海外でのヒットがたびたび報じられている尾崎だが、杏里「オリビアを聴きながら」や松田聖子「天使のウィンク」、観月ありさ「伝説の少女」など、女性歌手への楽曲提供で長年にわたる実績がある。そこで今回は、彼女の提供曲を対象として、サブスクでの人気作品を本人とともに考察していく。

 ちなみに、尾崎にサブスクを活用しているか尋ねると、どこかのサービスを利用しようとは思いつつ、まだ使っていないとのこと。ただし、自身が歌っている「純情」が海外で人気(Spotifyによると、同作の9割以上のリスナーが海外在住)というのは認識していて、

「私のこんな平べったい顔のどこがいいのかしらね(笑)。でも、嬉しいです。海外でも活動しようかしら!?」

 と、おどけてみせた。では、ここから尾崎亜美提供作の人気曲を見ていこう。

令和でも愛される名曲「オリビアを聴きながら」で意志の強い女性を描いたワケ

 提供曲部門のSpotify第1位は、尾崎が作詞・作曲を手がけた杏里のデビュー作「オリビアを聴きながら」(1978年)。以前、平成生まれの男女3人に昭和楽曲の魅力について取材したが(参考記事:「中森明菜」や「中島みゆき」の人気曲に世代間で大きな差が! 平成生まれのカラオケ愛好家らと、人気の昭和曲ランキングを考察)、3人とも自身が生まれる前に発売された本作を知っていた。同曲について、参加者の1人は「洋楽のように綺麗なメロディーで、古さを感じない」と語っている。

 令和でも“昭和の名曲”として根強い人気を誇る本作だが、当時のレコード売上はオリコン最高65位、累計5・5万枚と、驚くべきことに“ヒットした部類”には入っていない。にもかかわらず、時を越えて愛される楽曲になった理由を尾崎本人に尋ねてみると、

「令和になっても、カラオケで歌ってくださる方がとても多いと聞いていますが、確かに当時は、良く言って“中ヒット”くらいでした。でも、杏里も私もライブで大切に歌ってきましたし、その後も杏里が別のバージョンで歌い直したり、私自身、何度もセルフカバーしたりと歌い継ぐなかで、耳にしていただく機会が増えたのだと思います。

 今でも、例えば10曲ほど歌うライブがあったら、セットリストに必ず入りますね。曲名を言うだけで、会場から“ワーーッ!”って歓声があがるほど喜んでいただけるんです」

 それにしても、この曲は「あなた私の幻を愛したの」「二度と(電話を)かけてこないで」などの歌詞も印象的だ。昭和時代、ましてやデビューしたての女性歌手に、これほどまで意志の明確な女性像をあてはめたのは、かなり意外だったのではないだろうか。

「杏里が可愛らしい顔をしているから、多少強いことを歌にしても大丈夫だなって思ったんです。私は京都から出てきて、東京で初めて住んだのが六本木でしたが、当時、日本的な輝きのある京都とは全く違うことに日々戸惑っていました。ある時、夜のビルを眺めていたら、アイデンティティというか、“自分を見失ってはいけない”という強い意志が芽生え、そこに杏里と自分の接点を見つけた気がしたんです。

 あの頃、女性がフラれる歌は多かったものの、女性から別れを切り出す歌がほとんどなかったので、作ってみました。もし杏里がドスの利いた声をしていたなら、この歌詞は作らなかったかもしれません(笑)。でも、似たような世界観の作品がなかったからこそ、徐々に人気が出てきたのかもしれないですね」

 杏里では、他に2ndシングルの「地中海ドリーム」(Spotify人気ランキング12位)をはじめ、8作もの楽曲がTOP50にランクインしている。この結果から、当時「オリビアを聴きながら」は大ヒットしなかったものの、制作サイドと良好な関係が続いていたことがうかがえる。

「そうだと思います。実は、杏里にはデビューの段階でシングル用に3曲書いていたんですよね。そこから『オリビア~』を選んでもらって、2作目以降も続けて出したいと言われました。『オリビア~』 は自分としてもイチオシだったけれど、デビュー曲なら、もっとポップな感じのものが良いかな……とも思っていたんです。でも、当時のディレクターさんが、“地味かもしれないけど、この曲が好きだから『オリビア』で勝負させたい”と選んでくださいました。杏里とは今もよく電話をする仲ですが、“『オリビア』でデビューしてよかった”って、いつも言ってくれるんです」

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