智弁和歌山の“凛々しい虎”がリードした「90球の完封劇」 2年生捕手、山田凛虎に感じた“大器の予感”

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 連日、熱戦が続く今年の選抜高校野球。名門・智弁和歌山は、大会第4日の第3試合で初出場の千葉黎明と激突した。結果は、智弁和歌山が6対0で危なげなく勝ち進んだ。この試合で、筆者が注目した選手が、2年生捕手の山田凛虎である。【西尾典文/野球ライター】

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とても2年生とは思えない巧みなリード

 山田は、名古屋市生まれ。小学生時代は「ドラゴンズジュニア」でプレーしたほか、中学時代は、強豪の東海中央ボーイズで全国制覇を成し遂げた。なぜ、智弁和歌山を選んで進学したのか、その理由は記事の後半で触れる。

 この試合では、わずか90球で完封勝利をおさめた渡辺颯人(3年)を巧みにリードして、千葉黎明を封じ込めた。

 詳しくプレーを分析していくと、安定したキャッチングとテンポの良さが際立つ。立ち上がりの渡辺は、球威がありながら、少し制球が不安定だったものの、ストライクゾーンを外れるボールも難なくキャッチしていた。この姿は、とても2年生とは思えなかった。

 それに加えて、捕球すると素早く返球し、サインを出すテンポも速い。千葉黎明のバッターは、速いリズムにつられるように、どんどん早打ちとなり、凡打の山を築いていった。それが、「90球の完封劇」に繋がったといえる。

 もちろん、ただテンポが速ければ、良いというわけではなく、渡辺の状態と相手打線の力を見極めながら、最適なボールを常に選んで、投げさせていた。

記者の質問にもハキハキと的確に返答

 山田は、試合後、こう話している。

「(渡辺は)立ち上がりにボールが先行するところもあったのですが、しっかり立て直して、最後まで投げ切ってくれたのは良かったと思います。(2回のツーアウト一・二塁の場面でマウンドに行った時は)3点リードしていたので、『落ち着いて、1球1球投げていけば大丈夫だ』という話をしました。試合前のブルペンでも、ボールに力がありました。相手の打線を見ても、『なべさん(渡辺の愛称)のいい真っすぐで押して行ける』と思ったので、ストレートを生かすことを考えていました。(球数が少なかったことについては)無駄なボール球を減らして、どんどんテンポ良く自分たちのペースで投げていこうと。最後まで真っすぐで押し切れたのが良かったです。(返球のテンポも速かったことは)ピッチャーが気持ちよく投げられることを意識していました」

 記者の質問に対しても、考え込むようなそぶりを見せることは全くなく、ハキハキとした口調で、質問に対して的確に回答していた。このあたりにも“捕手の素養”が感じられた。

 渡辺のストレートを生かすために、6回裏の先頭打者への配球が、筆者に強い印象を残した。

 6回表に1点を追加して4点差。6回裏、千葉黎明の攻撃は、先頭打者から始まった。試合の流れを、完全に引き寄せるには、重要な局面だ。

 ここで初球からカーブ、カーブ、チェンジアップと緩い変化球を続けて、ツーストライクと追い込む。山田は、そこから一転して、外角へのストレートを3球連続で要求。空振り三振に仕留めて、千葉黎明に反撃の余地を与えなかった。

 同じコースへの同じ球種、しかもストレートを3球続ける。これはかなり勇気がいるリードであり、高校野球の試合ではなかなか見ることがない。

 ストレートで押し切れる確信があったことに加え、変化球を連投させて、打者の意識を変化球に向かわせる。変化球という“餌”をまいた後に、立て続けにストレートで真っ向勝負。これが効果的だったことは間違いない。

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