6年前なら1%前半の金利…「固定ローンユーザー」は上がり続ける「変動金利」を高みの見物? 専門家の見解は
「正直なところ“勝ったな“と思っています」
そんな変動金利ユーザーを尻目に、余裕の表情を見せるのが「固定金利派」の住宅ローンユーザーたちだ。
「当時からネットやSNSでは“変動金利一択”という意見が多かったのですが、自分を信じて固定金利にして良かったです。このままいけば、2026年末には変動金利が1%を超えている可能性が高そうですが、1.5%になろうが2.0%になろうが、我が家には関係ありません。安心感は大きいですね。ちょっと意地悪かも知れませんが、正直なところ“勝ったな”と思っています(笑)」(Bさん)
そう語るのは、2019年にフラット35で埼玉県に戸建て住宅を購入したBさんである。利率は1.2%ほどで、借入額は5000万円。返済は今年で6年目を迎える。住宅ローン比較診断サービスの「モゲチェック」を手掛ける住宅ローンアナリストの塩澤崇氏が補足する。
「2019年と言えば、ちょうど第1次トランプ政権が関税政策を掲げ、米国経済の先行きが不透明になった頃です。トランプ氏がFRB(連邦準備制度理事会)に利下げ圧力をかけ、それに影響を受けた日本の長期金利も1.1~1.2%ほどに下がりました。確かに、そのタイミングで固定金利を選択された人からすると、今の状況は“高みの見物”になるかも知れません」
塩澤氏も、政策金利のターミナルレートは1.0~1.5%程度になると予想している。仮に1.5%となれば、変動金利の適用金利は銀行の諸経費分が上乗せされ、1.7%前後になる。「あの時、固定で借りていれば……」という声が高まりそうなものだが、「ただ、固定金利を選んだユーザーが“勝った”とまでは言えないのではないでしょうか」(塩澤氏)とも。一体どういうことだろうか――?
「固定派の勝利」に見落とされがちな視点
「確かに、日銀の利上げが1.0%で打ち止めにならず、1.25%や1.5%まで引き上げられる可能性はあります。もしそうなれば、Bさんのように“いい時期”に1.2%の固定金利で住宅ローンを組んだ人と、変動金利ユーザーの適用金利とが逆転する可能性は0ではありません。でも、それで“固定派の勝利”と言う人には大事な視点が抜けています」(塩澤氏)
塩澤氏が指摘するのは、既存の変動金利ユーザーがこれまでの間に既に得ている「恩恵」である。
「住宅ローンの借入期間は長期に及びます。変動金利と固定金利にはそれぞれメリットとデメリットがあり、どちらを選ぶかは『利用者がなにを求めるのか』ということに尽きます。ただ、利息の総支払額という視点で、あえて両者の“勝者”を決めるのであれば、ある時点での金利差を比較するだけでは不十分です。特に変動金利は最初の10年間で金利の半分を支払いますので、その時期を低金利でやり過ごせた人は十分に変動金利のメリットを享受できていると言えます」(同)
「2019年に固定金利を選ばなかった人」は既に6年間、固定金利より低い金利で返済を終えているという“アドバンテージ”があるので、「あわてる必要はありません」と言うのである。
「また、今後の金利上昇への備えとして変動と固定の金利差を長期分散積立投資に回すことをオススメしてきましたが、それを実践されている方は過去の株価上昇の恩恵も大きく受けているはずです。」(同)
では、これからまだ変動金利が上がっていくことが確実視される「今」の時点で、新規の住宅ローンユーザーが選ぶべきは、変動金利? それとも固定金利?
「変動金利の上昇が予想されていますが、固定金利はもっと高いですからね。もし今、1.2%の固定金利を選べるのであれば、固定金利も選択肢に入ると思いますが、実際には1.9%付近まで上がっており、2%超えも視野に入る状況です。変動と固定の金利差が拡大している今、固定金利は選びづらいです。また、金利は上がったり下がったりするものなので、利下げ局面では利払いが減ることも考えられます。35年トータルの利払い額で考えれば、借り過ぎには注意する必要があるものの、やはり“変動有利”には変わりないと考えています」(同)
「あの時、固定金利で借りていれば」、「あの時、家を買っていれば」、「あの時……」
そう考えてしまうのは人生の常とも言えるが、少なくとも「変動金利」を選んだ人が大後悔するのは、少し気が早いようだ。
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