「戦争に備えよ」との機運高まりついにドイツが“財政拡大” 「次の金融危機の火種」と警戒が広がる納得の理由
エネルギー価格高騰と高齢化にどう対処?
エネルギー価格の引き下げも喫緊の課題だ。
パイプラインで輸送されるロシアからの天然ガスの利用を断念したことが災いして、ドイツのエネルギー価格は高止まりしている。このため、エネルギー多消費型産業を中心に海外移転が進んでおり、「産業の空洞化」が危惧されている。
ロシアからの再調達が見込めない状況下で、停止した原子力発電所の再稼働や石炭火力発電所の積極活用などが検討されているが、実情としてはハードルが高い。
高齢化に伴う人手不足も頭の痛い問題だ。
過去10年間は移民などの積極的な受け入れでこの問題を回避してきたが、2月の総選挙で極右政党が躍進するなど反移民感情が高まっている。メルツ次期首相も規制の強化を訴えてきたことから、今後、人手不足が深刻化するだろう。
福祉より軍事の優先で「米国化」も
公共投資の拡大に併せて抜本的な構造改革を断行しない限り、ドイツの潜在成長率を上昇させることはできないのではないだろうか。
再軍備に舵を切ったドイツが、これまでと同様の社会福祉制度を維持できないのではないかという不安も頭をよぎる。高齢者の医療費や年金を現役世代が支える仕組みは既に難しくなっており、今回の軍拡のあおりを受けて福祉の縮小を前倒しで余儀なくされる可能性があるからだ。
福祉より軍事の優先は、ドイツが離反しつつある米国の「国のかたち」に似ていくことを意味する。これほどの皮肉はないのかもしれない。
他EU諸国の債務拡大を助長する懸念
ドイツの債務拡大の動きが、国際金融市場に波紋を呼んでいることも気がかりだ。
BNPパリバは18日、ドイツの10年物国債利回りについて、2028年までに4%に上昇し2008年以来の高水準となる可能性があるとの見方を示した。
ゴールドマンサックスは、ドイツの財政赤字のGDP比が昨年の約2%から2027年には最大4.5%まで上昇と予測している。過去半世紀でこの水準を超えたのは、オイルショック後の1975年と旧東独地域に大量の資金が投入された1995年のみだ。
EUにおける財政規律の代弁者だったドイツの進路変更が、他EU諸国の債務拡大を助長する懸念から、フランスとスペイン、ギリシャが「最も脆弱な立場」にあるという観測も生まれている(3月21日付ブルームバーグ)。
政府債務が「次の金融危機の火種」になる?
「米国債の信用低下を招く呼び水になる」という声も聞こえてくる。
ドイツの債務拡大に国際金融市場が動揺する背景には、世界の公的債務が膨張し続けているという事実がある。
経済開発機構(OECD)によれば、世界の昨年の債務残高は100兆ドル(約1京5000兆円)を超えた。利払い費の対GDP比(平均)は3.3%と国防費を上回る水準に達しており、「政府債務が次の金融危機の火種になる」との警戒が高まっている。
このように、ドイツの債務拡大は波乱含みだ。最大の関心を持って今後の動向を注視すべきだろう。
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