「戦争に備えよ」との機運高まりついにドイツが“財政拡大” 「次の金融危機の火種」と警戒が広がる納得の理由
新政権は徴兵制の復活も視野
ドイツでは、防衛支出の大幅な拡大を可能とする基本法(憲法に相当)の改正が実現した。連邦議会(下院)に続き、3月21日に連邦参議院(上院)が承認したことで、ドイツ政府は防衛などの資金確保のために数千億ユーロの借り入れが可能となった。
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この背景には、3年目を迎えてもウクライナ侵攻を続けるロシア、長く安全保障のパートナーであった米国に対する不信感の高まりがある。
ドイツの防衛支出は、1992年を最後に北大西洋条約機構(NATO)の目標値である国内総生産(GDP)比2%を下回り続け、再び目標を達成したのは2024年だった。
国内では「戦争に備えよ」との機運が高まっており、4月に発足が見込まれている新政権は2011年に停止された徴兵制の復活も視野に入れている。
防衛産業は活況だが、警告も
欧州の要であるドイツ経済はこのところ絶不調だ。2年連続でマイナス成長を記録し、トランプ関税の悪影響も懸念されていた。
だが、財政拡大への期待から景況感は急速に改善し、欧州経済センター(ZEW)が18日に発表した3月の景気期待指数は51.6と、2月の26.0から大幅に回復した。
財政拡大の恩恵に浴する防衛産業は活況を呈している。独防衛大手ラインメタルは、苦境にあえぐ独自動車産業の国内工場を買収するなど、設備増強の動きが活発だ。同社の株価も急騰しており、時価総額は独自動車最大手フォルクスワーゲンを上回るほどだ。
だが、慎重な見方もある。フィッチ・レーティングは18日、歳出拡大が持続的な成長につながらない場合、ドイツの信用格付け「AAA」が圧力にさらされる可能性があるとの警告を発した。
先行きを不安にする「官僚主義」
歳出拡大を持続的な成長につなげるには構造改革が不可欠だが、ドイツ経済が抱える最大の問題は官僚主義の蔓延だ。
世界経済フォーラムが2023年に実施した調査によれば、EU諸国のうち、政府の規制が過去4年間と比べて複雑になったのは3ヵ国だけで、その1つがドイツだった。
ロイターが業界団体幹部に実施したインタビューでは、「ドイツの官僚主義的な手続きのコストや手間のせいで本来であれば投資すべきリソースが食い潰されている。これにメスを入れない限り、公共投資拡大の効果は薄れる」との声が相次いでいた。
新政権も、優先すべき政策課題15項目の2番目に「官僚主義の解消」を挙げているが、「言うは易し、行うは難し」だ。
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