「今の中国は毛沢東時代と変わらない」 「ダライ・ラマ」最後の自伝で「習近平」を猛批判 「父親とは贈り物をやり取りしたが、息子は抑圧的」

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ダライ・ラマ制度の廃止も

 このパンチェン・ラマ10世の後継者探しの時のような中国政府の不当な干渉がダライ・ラマ14世の後継者認定過程でも行われる可能性は否定できないのだ。

 ダライ・ラマは2009年11月、訪問していた沖縄で、筆者の単独インタビューに応じて、「中国が(パンチェン・ラマの後継者認定で行ったような)同じような方法をとらないとは限らない。その場合、大きな混乱を招くだろう。そのような混乱を避けるために、ダライ・ラマ制度そのものを廃止する可能性はありうる」と前置きしたうえで、次のように語っている。

「インドのチベット社会がダライ・ラマ制度の継続を望めば、私の後継者を選出しなければなりません。私は1997年7月、後継者の選出について基本的な見解を明らかにしています。それは3つの方法があります。ローマ法王の選出の仕方に倣って宗教指導者の投票によって選出すること。2つ目は私が生きている間に選出する方法です。最後は伝統的な方法で、私の死後、生まれ変わりを探して、ダライ・ラマと認定することです。この場合、私が中国以外で死亡すれば、生まれ変わりも中国以外で生まれ変わるというのが理にかなっているでしょう」(このダライ・ラマの発言は、拙著『ダライ・ラマ「語る」』(小学館101新書)に収録)。

自由世界に生まれる

 ダライ・ラマは新著でも、こう強調している。

「私は90歳になろうとしています。もし私が生きている間に解決策が見つからなければ、チベットの人々、特にチベット国内の人々は、私との和解に至らなかった中国指導部と共産党を非難するでしょう。私の年齢を考えると、当然のことながら、多くのチベット人は私がいなくなったらどうなるのか心配しています。チベット人の自由を求める私たちの運動の政治的な面では、現在、自由世界にはかなりの数のチベット人がいますので、私たちの闘争は何があっても続くでしょう」

 さらに、

「ダライ・ラマの転生問題に関する私の考えをまとめると、私は、次期ダライ・ラマの承認が伝統的なチベット仏教の方法によって行われない限り、世界中のチベット人やチベット仏教徒が、政治的目的のために選んだ候補者を、いかなる形でも受け入れるべきではないと主張する。このなかには、中華人民共和国からの者も含みます。さて、輪廻転生の目的は前任者の仕事を引き継ぐことであるため、新しいダライ・ラマは自由世界に生まれ、ダライ・ラマの伝統的な使命、つまり、普遍的な慈悲の声、チベット仏教の精神的指導者、そしてチベット人の願望を具現化するチベットの象徴となることが継続されるのです」

 ダライ・ラマの後継問題についてのチベット仏教の高僧らとの協議まで、あと4カ月ほどだ。そこでどのような結論が導き出されるのか。その結果次第では、ダライ・ラマ側と中国との対立は新たな展開を迎えることになる。

相馬勝(そうま・まさる)
1956年生まれ。東京外国語大学中国語科卒。産経新聞社に入社後は主に外信部で中国報道に携わり、香港支局長も務めた。2010年に退社し、フリーのジャーナリストに。著書に『習近平の「反日」作戦』『中国共産党に消された人々』(第8回小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞)など。

デイリー新潮編集部

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