「扇千景」「坂田藤十郎」の大豪邸が財務省の抵当に入った理由 「成駒家」兄弟に相続税がのしかかり「3億5000万円」を延納へ
利子税ものしかかり
ややこしいのはここからだ。登記簿の「乙区」、つまり権利者の欄を見ると、気になる記載がある。ここに昨年11月25日付で、権利者を財務省として、抵当権が設定されているのだ。債務者は、相続人である鴈治郎、扇雀兄弟である。
鴈治郎に関しての債権額は約1億4441万円。内訳は相続税の額が約1億727万円、利子税の額が3713万円。扇雀に関しての債権額は約1億9391万円。うち相続税額が約1億4453万円、利子税の額が約4398万円となっている。
これは一体、どういうことなのか。
先の税理士によれば、
「本来、相続税は相続が発生してから、この場合であれば扇さんが亡くなってから10カ月以内に一括で現金納付することが義務付けられています。しかし、本件のような資産価値が非常に高く、相続人が期間内に収めることが難しい場合は、税務署との協議の上、納められない分を延納に回すことが出来るのです。延納期間は5年から20年まであり、相続人が税務署に計画書を提出。相続税の額や相続人の収入によって期間や毎年の納付額を決め、計画に則って毎年定められた相続税を支払うことになります」
歌舞伎界の名家「成駒家」兄弟でも、それぞれ1~2億円の現金を用意することは難しかったようだ。ちなみに、兄弟で相続税額が異なるのは、建物の所有割合が異なるためと見られる。このビルは地上3階建てで、地下には稽古場がある。概ね地下1階と地上1階部分は鴈治郎、2階と3階部分は扇雀が相続しているが、所有割合は扇雀の方が広く、そのため、弟の相続税の額が高くなっているものと思われる。
「この利子税の額から見て、兄弟は長期間の延納期間を組んだものと思われます。実は、相続税が支払えなくなり、延納手続きを取るケースは地主さんなどにはそれなりにある事例です。ただ、注意したいのは、計画通りに支払えなくなると担保物件をすぐに差し押さえされてしまうこと。納付の見込みがない場合には、競売にかけられてしまう恐れもあります。また、相続税を一括で支払えば、それ以上は余計な税金を取られることはないのですが、今回のケースのように延納すると利子税がかかってくる。2人の場合、それぞれ3~4000万円がのしかかっていますよね。そうならないよう、資産家は通常、生前から税理士に相談し、少しでも相続税に関わる負担を減らすよう、万全を期すものですが、この場合はどうだったのでしょうか。扇、坂田夫妻は他にも現金、株、有価証券、骨董品などを所有し、相続財産はあったでしょうから、それらの価値が予想外に大きく、相続税額が思ったより膨らんだという可能性もあります」
兄弟に尋ねると…
鴈治郎、扇雀兄弟はそれぞれ子息の壱太郎、虎之介も歌舞伎役者として売り出し中。そんな中、大きな負担を抱え込んだものである。
両者に本件について尋ねてみたところ、鴈治郎の事務所・ナリコマヤオフィスは「お答えできることは何もございません」、扇雀事務所は「回答は控えさせていただきます」とのことだった。
冒頭で述べたように、相続税に頭を悩ませる向きは少なくない。国税庁のデータでは、昨年度の相続税の新規発生滞納額は、前年度の約11%増となっている。
「本件は、資産家でも相続税の支払いに苦慮することを物語っています。生前からの相続税対策が如何に大切なことかを示していますね」(前出・税理士)