「夫の死亡保険など総額1億円以上を献金」 それでも山上徹也被告の母親が語っていた“本音”は「信仰は続けたい」【統一教会に解散命令】
事件前日に送られた手紙
では、現実ではどのような道筋をたどり、山上容疑者は「ジョーカーに変貌したのか」。読み解く鍵は、彼がしたためた手紙にある。
〈ご無沙汰しております。「まだ足りない」として貴殿のブログに書き込んでどれぐらい経つでしょうか。〉
この書き出しで始まるA4判1枚の書面が入った封書の送り先は、統一教会を批判する活動を行っているルポライターである。消印は「岡山中央」になっていた。
山上容疑者は事件前日の7月7日、遊説中の安倍晋三元首相(享年67)を、岡山でも狙っており、かの地から投函したのである。もっとも、
「安倍さんが今月6日、横浜に応援演説に入る際にも山上容疑者が狙っていたという情報があります。前日、三原じゅん子の事務所に、執拗に翌日の安倍元首相の立ち位置などを確認する問い合わせがあったのです」(前出・捜査関係者)
手紙はこう続く。
〈私は「喉から手が出るほど銃が欲しい」と書きましたがあの時からこれまで、銃の入手に費やして参りました。その様はまるで生活の全てを偽救世主のために投げ打つ統一教会員、方向は真逆でも、よく似たものでもありました。〉
「銃の入手」と記しているが、実際は“自製”。昨年秋からネットで銃の作り方を調べ、部品も通販で仕入れて試作を繰り返していた。
「黒色火薬もお手製。犯行に使った銃は金属製の筒2本を木製の板やテープで固定し、発火用の電気コードを接続したものでした」(社会部記者)
深夜に異音が
家賃3万5千円、19平方メートルで間取り1Kの部屋は武器工場と化し、外に異音が漏れていた。マンション階下の住民が言う。
「月に1、2回、深夜に“ギュイーン、ドドドド”という音が響いていました」
今月5日、山上容疑者を目撃していた別の住人は、
「こちらからあいさつをしたんですが、会釈すらなく、目も伏せたまま。まるで、自分以外は世界に誰も存在しないかのようでした」
手紙の先を読もう。
〈私と統一教会の因縁は約30年前に遡ります。母の入信から億を超える金銭の浪費、家庭崩壊、破産‥,この経過と共に私の10代は過ぎ去りました。その間の経験は私の一生を歪ませ続けたと言って過言ではありません。
個人が自分の人格と人生を形作っていくその過程、私にとってそれは、親が子を、家族を、何とも思わない故に吐ける嘘、止める術のない確信に満ちた悪行、故に終わる事のない衝突、その先にある破壊。〉
夫の死亡保険も寄付
手紙を受け取ったルポライター、米本和広氏が語る。
「山上容疑者の犯罪は許されることではないですけど、家庭環境を考えると、その苦しみは理解できます。実際、統一教会によって家庭が崩壊してしまうケースは多いですから」
事件の背景には母親の統一教会への入信がある。山上容疑者の伯父によると、入信のきっかけは二つ。一つは、父親が1984年12月に自殺したことだ。
「翌年2月に妹が生まれたのですが、彼女は父親の顔を知りません」(伯父)
加えて、山上容疑者の兄が6歳の時に小児がんになったことも、母親を信仰の道へと駆り立てた。
「長男は7歳で抗がん剤を投与され、その翌年には頭蓋骨を開ける手術まで行っています」(同)
信仰は家族を一切顧みないものだった。
「統一教会は母親の入信時期を98年だと発表していますが、あれは間違い。本当は91年です。入会時に、2千万円を献金してますよ」(同)
3年以内に母親は合計で6千万円を教会に寄付。原資は主に夫の死亡保険金だった。
山上容疑者は手紙の続きでこう訴えている。
〈世界中の金と女は本来全て自分のものだと疑わず、その現実化に手段も結果も問わない自称現人神。
私はそのような人間、それを現実に神と崇める集団、それが存在する社会、それらを「人類の恥」と書きましたが、今もそれは変わりません。〉
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