レス妻に当てつけるようにSM不倫 「我ながらクズ」な42歳夫が戸惑う人生の急転回

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自分の感情は置いておいて

 世の中、なにが起こるかわからない。たった1回で、妻は妊娠した。その報告を聞いたとき、心の中で彼は「え、嘘だろ」と思った。

「妻はひどくうれしそうで、それもなんだか意外すぎて、僕は気持ちがついていけなかった。それからはあまりに普通の妊婦さんだったんですよ。検診に行っては『今、500円玉くらいの大きさなんだって』と報告してくる。この人は誰なんだろうと僕の中では、ひたすらはてなマークが点滅してる。そうすると『あなたは喜んでないの?』と言われる。ここはもう、自分の感情は置いておいて、よき夫を演じるしかないと思いました」

 レスだったのに、そしてレスのままなのに、思いも寄らぬ帰結だった。そして生まれた子を見て、彼はさらに頭がこんがらがったという。

「僕にしてみれば、たまたまできちゃった子ですが、子どもからみれば僕らしか親はいない。つまりは愛さなければいけないんですよね。親になった多くの友人が、『なんだかんだ言っても、子どもが生まれればもうかわいくて、メロメロになるぞ』なんて言っていたけど、僕には負い目みたいなものが強くて。外での不倫やSMがバレたらバレたで、妻に対しては開き直るしかないのかもしれないけど、子に対してはどうなんだろうと考えたり……。ただ、とりあえず今は生まれたばかりだから、周りの父親たちを見ながらこうやっていくのが正しいんだろうなと、いい父親をきっちり演じていくつもりです。それにしても、子どもはいなくていいよねと言っていた妻が、あまりにすんなり母親になっているのを見ると、なんとも言えない気持ちになりますね」

 妻とはレスだったこと、家族という一体感ももてない結婚生活だったこと、そんな状態が10年も続き、その過程で彼が不倫に走り、さらには自分の性的指向を満たすためにSMを追究していったこと。それらをいちいち納得しながら聞いていたのだが、最後に思わぬどんでん返しといった感じだろうか。聞いているほうでさえそうなのだから、渦中にいる彼が、気持ちが追いつかないと思うのも無理はない。

今後はどうなる

 それにしても人間の営みは興味深い。妻側からみれば、社交的でもなく、ひとりでいるのが好きな自分を受け入れてくれる男性などいないと思っていたのに、思いがけなくわがままを許してくれる男性に出会って結婚。その後も、食事もともにせず好きなように生きていくことができた。夫はセックスを求めているが、したくないといえば無理にとは言われない。お互いに好きなように生きていければいいと思っていた。ところが40歳を超えて、タイムリミットがあると思ったら、どうしても子どもがほしくなった。本心はわからないが、夫も乗ってくれた。そしてすぐに子どもに恵まれた……。産んでみたら、とにかくかわいい。自分の母性が炸裂しているのを感じているのではないだろうか。

 どこかで感じている夫婦間の齟齬は、案外、子どもが埋めてくれるのではないだろうか。だからといって、彼の不倫やSMが止むとは思えない。妻が今後、性的関係を復活させようとするかどうかも未知数だ。

「今はとにかく、世間でいうところの“いいおとうさん”になるしかないんだろうなと思っています。わからないですよ、数ヶ月たったら、いやあ、やっぱり子どもは最高だよ、もうメロメロだよと言っているかもしれないし。こんなことになるとは思っていなかったけど、まあ、人生、意外とおもしろいのかもしれませんね」

 自分のSM指向でさえ論理的に説明してきた優輔さんだが、さすがに今後の自分の心の変化は予測できないようだ。彼の波瀾に満ちた人生は、まだまだこれからなのかもしれない。

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 優輔さんの言葉には、戸惑いがにじみつつもその端々に幸福感がうかがえる。妻に関係を拒まれたことによる、記事前編までの絶望感が嘘のようである。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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