通算300盗塁の節目で起きた「誤判定」 選手は猛抗議、マスコットガールは棒立ちに…盗塁記録をめぐる「珍ハプニング」で球場が騒然
プロ野球の2025年シーズンが3月28日にいよいよ開幕する。今季達成間近の記録の中でも、開幕早々に実現濃厚とみられているのが、“世界のスピードスター”周東佑京(ソフトバンク)と“ミスター・トリプルスリー”山田哲人(ヤクルト)の通算200盗塁(ともに『あと5』)である。これまでにも多くの足のスペシャリストが節目の記録に挑んでいるが、記録達成時に思わぬハプニングに見舞われた“レジェンド”たちも少なくない。【久保田龍雄/ライター】
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「今日は走らんからな」と宣言していたのに…?
状況的に走るつもりがなかったのに、執拗なけん制球に闘志をかき立てられ、心ならずも世界新記録を達成したのが、阪急・福本豊である。
1983年6月3日の西武戦、ルー・ブロック(カージナルス)のメジャー記録・通算938盗塁まで「あと1」と迫った福本は、初回に早くも二盗を決め、ブロックに並んだ。
だが、この日は8回を終わって6対11と大差をつけられたことから、「新記録は勝ち試合で」と決め、9回に四球で出塁した直後、ベンチから盗塁のサインが出たにもかかわらず、自重した。
弓岡敬二郎の二ゴロで二進後も、福本は「100パーセント自信のある三盗で世界新を達成しても面白くない」と考え、ショート・石毛宏典に「今日は走らんからな」と宣言した。ところが、マウンドの森繫和は2度にわたって二塁にけん制球を投じてきた。2度目はアウトを宣告されても、おかしくない微妙なタイミングだった。
そして、このけん制が福本の闘志に火をつける。「あまり行く気はなかったけど、行こうと決めた。僕も変わったとこあるからね」と簑田浩二の4球目にスタートを切ると、余裕で三盗を成功させ、プロ15年目で世界新記録を達成した。
敵地にもかかわらず、打ち上げ花火と花束贈呈で祝福された世界の盗塁王は「お世話になった人、みんなに感謝したい」と言いながらも、「でも、何かピーンと来ませんわ」と複雑な胸中を吐露している。
花束を持ったマスコットガールが所在なげに立ち尽くす事態
一度はアウトを宣告されながら、自らの抗議で判定を覆し、通算300盗塁を達成したのが、大洋時代の高木豊である。
1992年8月19日の巨人戦、大台まで「あと1」に迫った高木は、3回2死から右前安打で出塁。次打者・堀江賢治の初球に二盗を試みたが、ショート・上田和明にタッチされ、井上忠行二塁塁審はアウトをコールした。
だが、上田が落球するのを見ていた高木は二塁ベース上で猛抗議。すでに巨人ナインはスリーアウトチェンジになったと思ってベンチに引き揚げ、抗議する高木の横では、贈呈用の花束を持ったマスコットガールが所在なげに立ち尽くす珍光景となった。
その後、江尻亮監督もコーチとともに加勢し、上田の落球をアピールした結果、責任審判の山本文男三塁塁審が「ジャッグルがあった」と認め、すったもんだの末、晴れて300盗塁を達成。遅ればせながら花束を受け取った高木も「すんなりいかなかったな」と苦笑していた。
花束贈呈といえば、中日・荒木雅博が2014年9月16日のDeNA戦で史上17人目の通算350盗塁を達成したときに、DeNAのチアガールが二塁ベース上で花束を手渡した直後、そのまま駆け足で引き揚げてしまった。
プレー再開に支障をきたした荒木が「オイオイ!」と花束を持ったまま追いかける珍ハプニングに、思わずクスリとさせられたファンも多かったはずだ。
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