新たな“怪物候補”がセンバツでベールを脱いだ…打者を翻弄する「横浜・織田翔希」の「40キロ球速差」に甲子園の観客とスカウト陣が湧いた

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プロの先発投手と比べ遜色ない「ストライク率」

 改めて織田の投球を振り返ってみると、ストレートのスピードばかりがクローズアップされるが、それ以外の点からもポテンシャルの高さが感じられた。

 一つ目は修正能力の高さである。この日は打者21人と対戦しているが、15人に対しては、初球がボール球となった。だが、2球続けてボールとなったのは、そのうちわずか2人しかいない。さらに、与えた四球は、5回のピンチでツーボールとなってからの申告敬遠だけだった。初球は厳しいコースをあえて狙っているようにも見え、それが外れたとしても次のボールでしっかりカウントをとれる。これは見事という他ない。

 この日投じた83球のうちボール球は26球で、ストライク率は68.7%に達している。これは、プロ野球の先発投手と比べても上位に位置する。初球がボールとなるケースが多くても、これだけのストライク率をマークしているところに改めて織田の凄さを感じた。

 もうひとつ、織田の大きな特徴が、緩急を使った攻めである。ストレートがたびたび150キロに迫る一方で、カーブとチェンジアップは110キロ前後とそのスピード差は40キロ近くとなる。

 しかも、その緩い変化球をしっかりと腕を振って投げることができる。市和歌山の打者は、緩急を使った織田の攻めに度々体勢を大きく崩されていた。逆に、スライダーやフォークといった速い変化球はまだまだ目立たない印象を受けるものの、小さく動くボールが全盛の時代だからこそ、このような強烈な緩急が新鮮に見えたことも確かである。

「世代を代表するピッチャーだと思います」

 ドラフトの対象となるのは来年だが、プロ球団のスカウト陣の注目度も当然高い。試合後、ある球団の関東地区担当スカウトは、「下級生だからまだ参考程度」と断りながらも、織田について、以下のように話してくれた。

「昨年の秋と比べて順調にスケールアップしていると思います。まだ体も細くてバランスを崩すこともありますが、あれだけ強烈に腕を振って150キロのボールをしっかり制御できているところが凄い。指先の感覚が相当良くて、速いだけでなくスピンもよく効いていると思います。2年春ということを考えれば十分過ぎるくらいですね。体をしっかり鍛えて細かい部分を覚えていけば、まだまだ良くなるでしょう」

 この日の第3試合では、同じ2年生である沖縄尚学の末吉良丞が、青森山田を相手に3失点完投勝利と見事な投球を見せ、最速も145キロをマークした。織田について話を振られた時には、末吉は「自分とはレベルが違います。既に世代を代表するピッチャーだと思います」と語っていた。2年春にして同世代から目標とされる存在となっている織田。“新怪物候補”は、どこまで進化していくだろうか。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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