石破総理の「地方創生」は下手すれば「地方崩壊」に “岐阜のタワマン”に見るリスク

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住民の利益や安全を損なう地方公共団体

 人口減少が深刻な状況下でタワマンを建て続けるわけは、事業主体となる企業の側に立てば理解しやすい。かぎられた土地から最大の収益を上げるためには、高層化がもっとも簡便で効率的な方法だからである。いわば、入手した土地から可能なかぎりの搾取をしたいという欲望が具現化したものがタワマンだ、といえば当たらずとも遠くない。

 そこには公共の福祉への配慮などありはしない。それが少しでもあれば、予想をはるかに超える速度で人口が減少するなか、タワマンという発想自体が生まれない。

 一方、地方公共団体の目的は、まさに「公共の福祉」にある。すなわち、社会全体の利益と住民一人一人の人権を調整し、住民福祉を増進させる、すなわち住民サービスを向上させるために存在するのが地方公共団体で、地方自治法でもそのように規定されている。ところが、タワマンが「地域のためになる」と住民に説明する川崎市は、私企業が刹那的に上げる利益を守るために、将来にわたる住民の利益や安全を損なっている。

 川崎市は、タワマンができて土地辺りの住人が増えれば住民税が増え、それを公共の福祉のために使える、と説明するかもしれない。しかし、タワマンの増加によって町内会が消失すれば、災害などの際の共助機能も失われ、それは少子高齢社会においては、住民の安全性が脆弱化することに直結する。

親密な町を破壊した再開発の代償

 さて、地方に話を戻すと、現在、武蔵小杉のようにタワマンが林立して話題になっている都市に岐阜市の岐阜駅周辺がある。2007年に43階建ての1棟が建設されたのが最初で、12年、19年と建ち、28年には岐阜駅前に34階建てのツインタワーが建つという。

 では、岐阜市ではよほど人口が増えているのかと思えば逆で、1985年の41万1,743人をピークに減少し、いまは40万人を切っている。要は、名古屋まで東海道本線で二十数分という地の利を売りに、名古屋市内よりも安価なタワマンを提供し、名古屋への通勤客を岐阜に住まわせようという戦略だと思われる。

 しかし、岐阜県は今後も全国平均を上回る速度で人口減が進むと予測されている。その局面で、タワマンを今後、どうやって維持するつもりなのか。仮に岐阜駅前のタワマンが満室になったとして、減りゆく人口の取り合いによって、ほかの地域の空洞化を生むだけである。あるいは、空室が増えて資産価値が下がれば、高額の修繕費を住人が負担できず、タワマンは廃墟と化していく。

 かつて岐阜駅周辺には、伝統的な都市空間が広がっていた。そこには雑然としているようで、有機的に発展した都市だけがもつ親密さがあった。かつての市街地にあった岐阜ならではの味わいを残し、人が触れ合うのにちょうどいい街路の広さや建物の高さを維持しながら、町を洗練させていれば、人口減社会にも適応しうる魅力的な岐阜になったと思う。

 ところが、前世紀の終わりに鉄道の高架化にともない広大な駅前広場がつくられ、その後、周囲にタワマンが建ちはじめた。そもそも駅前広場がヒューマンスケールをはるかに超えており、さらに年を追って、周囲に断片的に残された身近に感じられるエリアと、再開発エリアやタワマンとの乖離が進んだ。

 今後、さらに2棟のタワマンが建ち、岐阜市の人口が一時的に増えることはあるかもしれない。しかし、いずれは減少に転じ、さらに高齢化が進む。こうなれば住人にはタワマンなど到底維持できず、それはそのまま地方公共団体のお荷物になる。また、人口がタワマンに集中した結果として、周囲の空洞化も進む。刹那的に利益を上げようとする企業による開発を後押ししても、自滅への連鎖が進むだけであることに、岐阜市や岐阜県はどうして気づかないのだろうか。

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