石破総理の「地方創生」は下手すれば「地方崩壊」に “岐阜のタワマン”に見るリスク

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地方創生は急務だが……

 商品券配布の「問題」はここでは措くとすれば、石破茂総理が現在、もっとも頻繁に口にしているのは「地方創生」だろう。これについて4月にも「地方創生伴走支援制度」をスタートさせるという。総理によれば「中央省庁の職員を地方創生支援官に任命し、伴走支援をする」のだそうだ。支援官は任期が1年。3人1組でチームを作り、まずは60市町村を対象に現地訪問やオンライン会議をとおして、課題の整理、解決へのアドバイス、担当者や有識者、好事例の紹介などを進めるという。

 最初に選ばれた60市町村には、地震や豪雨の被害に見舞われた石川県輪島市や、大規模な山火事に遭ったばかりの岩手県大船渡市もふくまれる。だが、災害と縁があろうとなかろうと、多くの地方都市が現在、疲弊にあえいでいる。地方を訪れるたびに、そのことを強く感じる。

 だが、「地方」が「創生」されなければならないことには疑いの余地がないものの、これまで主流であったような再開発のスタイルを導入するかぎり、とりわけ少子高齢化の折から、逆に「創生」が不能な状況に追い込まれる危険性が高い。

 このため「創生」に向けてスタートする地方にも、総理以下、現場で支援にたずさわる支援官に対しても、ここで警鐘を鳴らしておきたい。

 地方の再開発を見ると、各地方の魅力や持ち味を顧みず、やみくもに東京やその近郊の開発を真似ているように見える。だが、東京エリアの再開発が大きな歪みを生んでいることに、まず目を向けてほしい。

廃棄物の山を築いて分断を招く

 2月3日付朝日新聞朝刊に「タワマンの街 町内会が解散へ/15年で人口2.5倍 でも『地域の崩壊』」という記事が掲載された。対象は川崎市中原区の武蔵小杉駅周辺で、このエリアは1995年に最初の1棟が建ったのを皮切りに、いまでは十数棟のタワーマンションが文字どおり林立している。

 ところが記事によれば、09年に2,214人だった町内の人口は、24年に約2.5倍の5,508人にまで増えたにもかかわらず、町会の会員は850世帯から650世帯へと減ったという。しかも650世帯の半分は、入居世帯がみな町会員になる古いマンションの住人で、タワマンの住人で町会員になっているのはわずかに10世帯程度。それも、主に以前からこの町内に住んでいた世帯だという。

 これでは活動もおぼつかず、地域の清掃や防犯パトロールなども中止に追い込まれた挙句、昨年5月の総会で解散が決まった。町会長は記事中で「タワマンができるとき、市は『地域のためになる』と説明したが、これでは地域の崩壊だ」と語っている。

 これはどこの地域にもいえることだが、タワマンの住人と、その周囲の戸建てや低層マンションの住人とでは、意識や価値観などが乖離していて、コミュニティを形成するのが難しい。同じタワマン内でも高層階と低層階とでは、住む人の価値観が異なるとよく指摘される。ましてやタワマンと周囲との分断は、タワマンが建ったエリアでは当たり前のように語られる。

 それなのに、市がタワマンは「地域のためになる」と語ったというから驚く。これが自治体およびその職員の感覚だとしたら、日本に未来はない。

 タワーマンションはなんのために建てられるのか。元来、人口が増え、今後も増加が見込まれる状況下で、かぎられた土地を有効活用するためのものだった。しかし、現在は周知のとおり人口の減少が止まらず、その流れに歯止めをかけるのが難しい。メンテナンスさえ困難なタワマンを建て続けるのは、将来に向けて廃棄物の山を築くに等しい。しかも、武蔵小杉の例が象徴するように、完成早々、地域の分断を招くという弊害も生じている。

 ちなみに武蔵小杉にはさらに28年までに、このエリア最大級となる地上50階のタワマンが2棟、完成するという。

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