4億台以上売れたウォークマン、音楽シーンに欠かせないシンセサイザー 世界を変えた日本の電子機器6選!
コイン選別技術は会社の礎
折しも、高度成長期後半に入った日本では、治安の良さも手伝って自販機が爆発的に普及していた。E-9130を完成させた67年にコインメカニズムを主力製品とする前身の日本コインコが創業し、88年に現在の社名になった。創業当時の市場シェアは100%。現在は電子マネー決済の機器類の製造を強化する一方、自販機用の硬貨・紙幣選別機の国内シェアもなお7割を維持しているという。
この間、2003年に外資の傘下入りをするなど組織の変遷もあったが、同社コア技術開発統括の坂本雄一さんは次のように談話を締めくくった。
「うちはキャッシュ、キャッシュレス問わず、世の中の金銭取引にまつわるところにはずっと関わっていこうという方針。これからも国内外を問わず、市場進出の余地は大きく広がると考えています。その意味でも、半世紀以上前に築いたコイン選別技術は会社の礎なのです」
珍しい未来技術遺産としては、2013年に登録された「蚊取線香」(大日本除虫菊)もある。世界初の除虫菊入りの蚊取線香で、形は棒状のものと、おなじみの渦巻き状のものとがある。マラリアなど蚊が媒介する疾病の予防に貢献した点が評価された。現在の和歌山県有田市でみかん農家に生まれた、KINCHOこと大日本除虫菊の創業者である上山(うえやま)英一郎が、蚊の駆除効果のある除虫菊を線香に練り込む製法を考案し、1890(明治23)年に「金鳥香」を発売したのが発祥。蚊取線香はその後、世界中に輸出されるようになった。
「失われた30年」を超えて
このほか、「新幹線0系」(日本国有鉄道)、「国産第一号の自動車タイヤ」(住友ゴム工業)、「電動アシスト自転車」(ヤマハ発動機)、「油圧ショベル」(日立建機)、「世界初のクオーツ式腕時計」(現・セイコーエプソン)、「世界初のCD-R」(太陽誘電)、「DVDプレーヤ」(東芝、パナソニック)、「民間航空機用ターボファンエンジン」(現・IHIほか)など、多種多様な製品が未来技術遺産に名を連ねている。いわゆる発明品は少ないものの、既にある技術や製品に創意工夫を凝らし、小型軽量化や汎用化、多機能化、高性能化、低コスト化の面で実績を残した“証拠品”なのだ。
数々のレガシーを築いてきた日本のモノづくり。とはいえ、日本経済は昨今「失われた30年」などと言われ、GDPも中国やドイツに抜かれて世界4位まで後退し、貿易赤字が続くなど、統計上は盛者必衰の現実を感じざるを得ない。そもそも円高を背景に有力メーカーの海外生産化が進み、株主構成や経営体制がグローバル化してきたのも周知の通りだ。一方で研究開発力や技術水準の低下も取り沙汰されている。
それでも、時代は大きく変わろうと、手先が器用で勤勉といわれる日本人持ち前の底力はまだ残っていると信じたいところだ。
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