4億台以上売れたウォークマン、音楽シーンに欠かせないシンセサイザー 世界を変えた日本の電子機器6選!

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「さっぱり売れなかった」

 構想を基にした試作機の完成から発売までには2年かかった。ローランドで長年、ヤオヤの後継機であるTR-909をはじめとするシンセサイザー楽器の設計・開発を担当してきた技術者の星合厚さんは、次のように説明する。

「この種のシンセサイザーでは、特に『響き』を作るのが難しい。部品や半導体の回路を変更するなどして調整を繰り返し、従来のドラムにあるような低音の広がりを持たせつつ、既存にはないユニークな音を作り出すのに非常に苦心したのです。ところが、ヤオヤは発売してしばらくの間、さっぱり売れませんでした。注目されたのは、90年代に入って、単なる音作りの機械ではなく、ライブなどの生演奏で使用する楽器として使われ始めてからです。それは想定外のことでした。後継機では、そうしたユーザーの反応を見て、ツマミを大きめにしたり、スライダーを付けたりしています」

 同社代表取締役の蓑輪雅弘さんも、顧客であるミュージシャンに育てられた部分が大きいと話した。

「電子楽器づくりは“対話”です。ユーザーであるミュージシャンの方とキャッチボールしながら製品を完成させていくものです。ただ、こうやって使ってくれるだろうと思って提供しても、思ったようなボールが返ってこないことも多々あるのです。私たちはそれを受け取って、現在まで電子楽器の改良を続けてきました」

80年代の大ヒット商品

 世界の楽曲づくりに旋風を巻き起こしたのが「808」なら、同じ80年代に希代の大ヒット商品となり、「音楽の聴き方」を世界的に変えたのがソニーの「ウォークマン」だ。私自身、90年代初頭に初めての海外取材で訪れたオランダの空港を出た途端、ウォークマンを聴きながら目の前を歩いていた地元の若い白人男性が「君は日本人だろ?」と声をかけてきて、うれしそうにイヤホンの片方を私の耳に近づけ、音楽を聴かせてくれたという経験がある。聞こえてきたのはYMOの曲だった。

 この初号機TPS-L2は1979年発売で、未来技術遺産登録は2012年。世界初のヘッドフォン・ステレオであり、「いつでもどこでもよい音で音楽を聴きたい」という人々の要望に応え、音楽の楽しみ方を決定的に変えた点が評価された。

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