4億台以上売れたウォークマン、音楽シーンに欠かせないシンセサイザー 世界を変えた日本の電子機器6選!
過去に数々の“レガシー”を築き上げてきた日本のモノづくり。国立科学博物館は未来へと引き継ぐべき技術史資料を2008年より“未来技術遺産”として選定してきた。381点中、注目すべき6点をここに紹介。そこからは日本の底力、可能性が感じられる。【菊地正憲/ジャーナリスト】
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マイケル・ジャクソン、ホイットニー・ヒューストン、マービン・ゲイ、そして世界の音楽シーンに多大な影響を与えた日本発テクノポップの旗手YMO……。名だたるトップミュージシャンの活躍に、日本製の小さな楽器がひと役買った時代があった。大手楽器メーカーのローランド(本社・浜松市)が1980(昭和55)年に製作、発売したTR-808というリズムマシンである。
80年代以降、世界中のポピュラー音楽のリズムパートに、その「ポンポン、ポコポコ、ドコドコ」というユニークな電子音が頻繁に使われるようになった。マイケルの大ヒット曲「今夜はビート・イット」のイントロにも登場するあの音である。それまでは、ドラムやパーカッションといえば人間が手足を駆使して繰り出す生音がほとんどだったのだが、特にTR-808の誕生以来、新し物好きのミュージシャンらが次々と斬新な電子音に飛びつき、リスナーもそれを大歓迎するようになったのだ。
ヒップホップやテクノに欠かせない存在
実はこの電子楽器(シンセサイザー)は、国立科学博物館(科博)が毎年、独自の調査や業界の推薦などを基に選定し、秋ごろに公表してきた「未来技術遺産」(重要科学技術史資料)の一例である。この遺産は日本のあらゆる科学技術を対象とし、貴重な資料の保存と活用を図ることを目的とする。未来へ引き継ぐべき近代以降の日本のモノづくり遺産が中心となっており、初回の2008(平成20)年からこれまでに381点の製品、部品や装置類が選ばれてきた。
TR-808は2019(令和元)年の登録。32種類のリズムの作成と作曲編集が可能で、作られたパターンを自由に組み合わせて1曲分のリズムパターンを作ることができる。技術的な先進性や音楽業界に与えた革新的な影響力が評価された。
とりわけ80年代から現在に至るまで隆盛を誇る「ヒップホップ」や「テクノ」のジャンルでは欠かせないリズムマシンの嚆矢(こうし)であり、「808」の数字から「ヤオヤ」の愛称で今も多くのミュージシャンらに親しまれている名機。最近では、数年前にはやったピコ太郎の「ペンパイナッポーアッポーペン」でもその音が使われた。当時15万円で発売された実機は、現在の中古市場では数十万円の値が付く。
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