マスターズ初優勝に期待十分の「マキロイ」 謙虚な強者のもとへUberが「14万円で緊急輸送」したものとは

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「情けない負け方」はしたくなかったスポーン

 それならば、スポーンはなぜ勝てなかったのか。キャリア初のプレーオフに臨み、しかも雲上人と言えるほど格上のマキロイとの一騎打ちだったのだから、緊張しないはずはない。

 たとえ、みんながマキロイの勝利を期待していても「僕は僕の勝利を信じる」と強気で語ったスポーンだったが、月曜日のプレーオフでは、もしかしたら、その強気が裏目に出てしまった可能性もある。

 これまでスポーンが挙げた勝利は2022年の1勝のみ。それ以外でも優勝争いに絡んだことは何度もあったが、敗北した大会では「勝利を逃した」という悔しさに加え、「情けない負け方をした」という不甲斐なさや屈辱感が自身の胸の中に蓄積されていたという。

「もう、こんな負け方だけはしたくない」と強く感じていたスポーンは、今回も「恥ずかしい負け方だけはしたくない」というフレーズを胸の中で反芻して いたという。

 17番の池ポチャによるトリプルボギーは、頭のどこかで描いては消そうとしていた最悪の場面が現実化してしまったのかもしれない。

「その気持ちはよくわかる」とマキロイ

 スポーンのそんな秘話を知らされたマキロイは、敗者を気遣い、こう言った。

「その気持ちはよくわかる。そんなふうに思う時期を、誰もが通る。僕もそうだった」

 その通り。マキロイにも「情けない負け方」は何度もあった。マスターズ最終日前半に首位を独走していながら、後半で大きく崩れ、一晩中、号泣したことがあった。

 目前だった勝利をみすみす手放した格好になり、悔しさのあまり、着ていたゴルフウエアを自分の手でビリビリに破き、その状態のまま、放心状態で佇んでいたこともあった。

 だが、そうした経験を味わったからこそ得られた結論は、ただ一つ。

 勝つために必要なのは準備と練習。それ以外に成功への近道はない。

 そして、そこから得られる自信と少しの幸運と健全な心。それらを身に付け、堂々と勝利したマキロイは、来る4月のマスターズで、今年こそ悲願の優勝と年間グランドスラムを達成するのではないか。

 マキロイへの期待が史上最高レベルまで高まっている。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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