巨人ファンの心をも揺さぶった日本シリーズから12年 東日本大震災復興の象徴「田中将大」が歩み出した再起の道(小林信也)

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巨人ファンも応援

 大合唱の余韻が残る中、田中は2本ヒットを許した。リードは3点あるが、やはり本調子ではない。この時、「祈る思いで楽天を、田中投手を応援していた」と後になって告白した巨人ファンを私は何人も知っている。楽天ファンだけでなく、巨人ファンでさえ楽天の勝利を願った……。

 田中将大はプロ野球の歴史の中で、巨人ファンに心から応援された唯一の相手投手ではなかっただろうか。

 最後の打者・矢野謙次を三振に取り、日本一が決まった瞬間、田中は球団を超えて愛される神話の主人公になった。それは天覧試合でサヨナラホームランを打った長嶋茂雄以来の出来事のように思われた。

巨人でフォーム改造

 その田中が、今季から巨人のユニフォームを着る。あの瞬間の感銘を大切に胸に抱いている者にとって、あまりに皮肉で複雑な状況だ。が、田中はそんな感傷や葛藤を自ら蹴散らす姿勢を見せている。

 メジャーリーグ(ヤンキース)で7年間、78勝46敗と活躍した後、21年に楽天に復帰してから4年間はいずれも勝ち星が負けを下回った。計20勝33敗。昨年は23年オフに受けた右肘クリーニング手術の影響もあって0勝1敗、プロでの連続勝利が17年で途切れた。

「もうマー君は終わった」と断じる声もある中、田中は諦めていなかった。それを行動で見せている。

 キャンプ序盤から注目されたのは「フォーム改造」だ。菅野智之を復活させたといわれる久保康生巡回投手コーチの助言を受け、真摯に改造に取り組む田中の姿は新人投手のようだ。

 キャンプ初日はマウンドの傾斜を逆に使ってネットスロー。まずは軸足の裏に体重を乗せたまま移動する感覚を体に思い出させた。

 2日目は正面を向いたままでネットスロー。腕が出てくる位置を確認。4日目には2個のボールを握って投げた。「手首を立てて、上からたたくように投げる感覚」を体に覚えさせるドリルだという。久保が日本テレビ村山喜彦アナウンサーの取材に答えている。

「目指す形は全盛期のような縦回転のフォーム。シンプルに王道のピッチャーでいってほしい。彼の素材を生かし切ったら、もっと素晴らしいピッチャーになる」

 田中は改造に取り組む思いを日本テレビの取材にこう語っている。

「昔は自然にできていた部分が少しずつ崩れていって、大きなずれになっていると、自分ではそう思っている。うまく投げられた時の感覚はすごく良いので、何とかモノにしたい」

 若い投手たちとの先発ローテーション争いにも、

「自分でやることをやって。当然そこに割って入っていきたい。若い選手が多いですけど、勢いに負けないように、僕も勢いを持っていきたいと思います」

 自分を信じて、もう一度立ち上がる挑戦。田中が復活を果たし、巨人のマウンドで輝く姿を見せてくれたら、「先が見えない」「希望がない」日本社会に大きな希望と勇気を与える存在になるだろう。

小林信也(こばやしのぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部などを経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』『武術に学ぶスポーツ進化論』など著書多数。

週刊新潮 2025年3月20日号掲載

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