巨人ファンの心をも揺さぶった日本シリーズから12年 東日本大震災復興の象徴「田中将大」が歩み出した再起の道(小林信也)

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 2013年の日本シリーズ、楽天と巨人が3勝3敗で迎えた第7戦。

 8回裏二死から楽天の岡島豪郎がレフトフライに倒れると星野仙一監督が三塁ベンチを出た。威嚇するような顔で主審に投手交代を告げた。

 リードして終盤を迎えたら「最後は田中将大に投げてほしい」、楽天ファンの多くが願っていた。この年の公式戦、田中は27試合に先発し、24勝無敗。田中が投げたら負けない。パ・リーグ初制覇の屋台骨だった。

 だが、前日第6戦で完投。160球を投げて負けた田中の連投は微妙だとささやかれる中、場内アナウンスより先に三塁ベンチを飛び出したのは背番号18だった。

 球場全体が大歓声に揺れた。スタンドに、

〈神様仏様 田中様 巨人よ! これが僕らのエースだ!〉

 と書いたボードを掲げるファンの姿があった。

 ウォームアップを重ねる間、リードして9回のマウンドに田中が上がる時のテーマ曲「あとひとつ」が流れ、大合唱が響き渡った。すでにその声は震えていた。この曲を思わず口ずさんだ巨人ファンも少なからずいた。言うまでもなく、「楽天日本一」には野球で勝つ以上の特別な意味があった。

 2年前の3月11日、東日本を襲った巨大地震と津波は東北地方に甚大な被害を与えた。震災による死者・行方不明者2万2千人以上。建物の全壊・半壊約40万戸。停電世帯も800万戸を超えた。東日本の多くの人々が災害の当事者だった。

 なんとか立ち上がろうとする中、楽天の選手会長・嶋基宏が、4月2日の復興支援試合の前に叫んだ。

「見せましょう、野球の底力を!」

 果たしてプロ野球にそんな底力があるのかと私は懐疑的だったが、2年の時を経て、楽天は被災者たちに勇気を与える存在となった。

 東日本大震災以降の3年間で田中は53勝9敗、完投30。611回3分の1を投げ、593奪三振で与四死球わずか88。自責点98。防御率は1点台。被本塁打もたった18本。田中は「底力」の象徴だった。

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