最終回「御上先生」で存在感が図抜けていた“生徒”の名前 「青少年の自死問題」を描いた意義

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「孤独にしない」理由

 御上が生徒たちに対し「僕は君たちを孤独にしない」と言い続け、実践している理由の根元にあるのは22年前の悔恨である。

 隣徳学院高の教員だった冴島悠子(常盤貴子)は不正入試に関わってしまい、さらに元教え子の戸倉樹(高橋恭平)が定期試験に関して不正を働いたため、責任を感じて教職を辞した。

 当初、分からなかったのは冴島の1人娘・真山弓弦(堀田真由)が、国家公務員採用試験会場で受験生・渋谷友介(沢村玲)を刺殺した動機だった。

 第2回で弓弦は御上に対し、動機を「テロだから。もしくは革命」と語る。納得した人はいないだろう。御上も受け入れなかった。

 動機がぼんやりと浮かび上がり始めたのは第3回から。弓弦は犯行直前まで手製爆弾を使った自爆テロを計画していたが、失敗に終わって殺人に切り替えたことが分かったためだ。弓弦は拡大自死を図ったのである。

 拡大自死とは、精神医学用語 で、自分以外の人間を本人の同意なく殺害し、自分も死のうとする行為。無差別殺人、自爆テロ、無理心中などを指す。孤独の末に凶行に至るケースが目立つとされている。

 弓弦の犯行が拡大自死であることが鮮明になったのは第8回。弓弦の幼いころの記憶は大学教授の父親・真山隆文(安藤彰則)が、母親の冴島に酷い暴力を振るう光景から始まった。高校では陰湿ないじめに遭う。そのうえ冴島と真山は離婚した。

 弓弦の犯行動機には社会への怒りも含まれていたかも知れないが、大半の理由はパーソナルなものだろう。弓弦も孤独だった。

 自死に拘ったこのドラマの強いメッセージがここにある。誰も孤独にしてはならない。自死問題の解決策の1つが、これであるとドラマ側は考えているのだろう。

 第1回と第2回、報道部部長の生徒・神崎拓斗(奥平大兼)は自分が書いた校内新聞の記事が一因となって、冴島が学校を追われたことについて罪の意識が芽生え始める。

 その娘の弓弦が殺人犯になったことを知ると、強い自責の念に駆られた。御上は神崎が自死することを心配し、寄り添った。同時に報道の怖さを教えた。

 第3回と4回、御上は生徒の東雲温(上坂樹里)から、元中学教師の父親(関智一)を追い詰めた文科省の教科書検定についての憤りをぶつけられると、東雲にも寄り添う。クラスで教科書検定について考える方向に導いた。

 その後、生徒たちの有志が文化祭で教科書検定の是非を問う発表を行う。高校生が教科書検定を語り合ったドラマは初めてだ。

 生理の貧困が題材になったのは第6回と7回。それは生徒の椎葉春乃(吉柳咲良)がドラッグストアで生理用品を万引きしたところから始まった。椎葉は一緒に暮らす祖父 (春延朋也)が認知症になり、祖母も倒れたため、生活が切迫していた。

 御上はドラッグストアに椎葉を迎えに行くと、叱るどころか彼女の窮状に気付かなかったことを詫びた。「すまない」。椎葉にも寄り添った。椎葉は退学処分になるものの、御上がどうするべきかをクラスで考えさせ、処分撤回に導く。

 経済的事情で生理用品を購入できず、生理の貧困に陥る女性は世界で約5億人いるという。日本でもコロナ禍をきっかけに社会問題化したが、過去にドラマで描かれたことはない。

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